グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。
※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年5月15日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。
「動物園のようにワクワクする、みんなの炭酸飲料」がコンセプトだというサントリーの新製品「ZOOCE Sparkling フルーツパレード」。「みんなの」だ。なんというワイドレンジなターゲティング! マーケティングエクセレンスなサントリーにしては珍しい展開。この製品、一体ターゲットは誰なんだろうか……。
カラフルな色や模様で描かれた、数々の動物たちのシルエットが踊るパッケージ。発売日は4月28日。ズバリ、ゴールデンウィーク前日。春のレジャーのお供にということなのだろう。狙い澄ましたタイミングだ。
「ZOOCE」(ズース)とは、「ZOO」と「Juice」を掛け合わせたネーミングだという。うーん、ダジャレのような、ダジャレにもなっていないようなネーミング。でも、なんだかかわいい。カラフルな動物がら。舌足らずの子どもが「ジュース」とうまく発音できず、「ズース、ズース」と言っているかのような名前だ。子ども向け飲料なのだろうか。
ネットの書き込みを見てみると、掲示板やブログでは女性の書き込みが多い。かわいいパッケージ。おいしいと高評価だ。女性をターゲットにしたのかもしれない。
う〜ん。分からない。少しサントリーのポジションを振り返って考えてみよう。
サイダー市場の巨人は、三ツ矢サイダー。アサヒ飲料である。発売以来約125年。透明炭酸飲料市場のシェアを60〜70%握っているが、2004年に製品リニューアルをし、さらに毎年売上げを順調に伸ばしている。
チャレンジャーとしてのサントリーの戦い方は「差別化」が基本だ。例えばサントリーが抱えるペプシコーラでは、キュウリ味やブルーハワイなどシビレるような味が記憶に新しい。毎年投入されるペプシの「変わり種コーラ」もまた、差別化戦略の一環である。
チャレンジャーの戦い方のもう1つの特徴は、「セグメントが巧み」だということ。リーダーのように全方位で戦う力はない。ゆえに、勝てるところをみつけて確実にそこで勝っていくのだ。その意味からすると、今回の「ZOOCE」の「みんなの炭酸飲料」は少々合点がいかない。
悩んでも仕方がないので飲んでみた。フルーツジュース的なフレーバーが感じられなくもないが、さほど強烈な主張はない。うす甘く、ほんのりと酸味も感じられる味わい。炭酸は軽めだ。なぜだか懐かしい。
あ、と気付く。「これ、ラムネ味じゃねぇの?」
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