右脳型銀行マンが左脳を使って物流を変えた――プラス ジョインテックスカンパニー 伊藤羊一さん(4/4 ページ)

» 2009年05月13日 07時00分 公開
[GLOBIS.JP]
前のページへ 1|2|3|4       

社会人大学院で学んだもの

 誠編集部では本記事の再掲にあたって、伊藤さんにいくつか質問をしてみた。

――社会人大学院に行ったのは何歳から何歳のときでしたか?

 現在も通っています。グロービスの単科講座に通い始めたのが2005年4月、38歳の時です。その後、2007年4月に大学院に編入しています。2008年3月から1年間、仕事が急に多忙になり通えなくなり休学していまして、20009年4月(42歳)に復学、あと1年程度で卒業となる予定です。

――どういう経緯、きっかけで社会人大学院へ行くことにしたのですか?

 こちらでも経緯を話しているのですが、20003年に転職し、銀行員から流通業、営業から物流の仕事と全然違う会社、職種に移りましたが、自分では、「しっかりとした分析力、問題解決力などがあればそういう転身もOKだろ! むしろ幅も広がるし」と軽く考えていました。しかし、実際にはそんな能力、いわゆる「左脳系スキル」は持っておらず、「新しい仕事にチャレンジしたが、何が何だか分からん」という状態が続いていました。

 そんな中で、2005年4月から物流セクションの責任者になることになってしまい、「ここでしっかり左脳を鍛えないと、仕事にならないぞ」と焦り、グロービスの門を叩いた次第です。

――何を学びたいと考えて社会人大学院を選びましたか?

 最初は「大学院に行きたい」ということではなく、「クリティカルシンキング」「定量分析」「プレゼンテーション」「人的資源管理」といった個別のテーマを単科で学ぼうと、グロービスに通い始めました。

 そのうち、「体系的にすべてのMBA的要素を鍛えておいたほうがよさそうだ」と考え、大学院に合流しました。それだけ、個別の科目での学び(と、ビジネスへの活用)が大きかったのです。

 つまり、「大学院に行こう!」ということでグロービスを選んだのではなく、グロービスに通っていて、そのまま、もっと学びたくなった、ということです。「改めてどこか大学院に行くかどうか」とは考えませんでした(グロービスで成長させてくれた、という思いがあったので)。

――実際にどういうことを学びましたか?

 言い尽くせないほどの大きな学びがあります。まずは「論理的な思考力」。「頭をどう働かせたらよいのか」ということをすべてのクラスで、徹底的に鍛えられます。

 「状況を整理する力」。何がメッセージなのか抽出する力は、論理思考系科目のみならず、全ての科目においてそういう訓練をベースにしていますので、自然と鍛えられます。

 次にこれも論理思考の応用ということでしょうが「コミュニケーション力」。1コマ3時間のクラスで、大半はグループディスカッションか、クラス全体での討議、またはクラスでのプレゼンテーションです。毎回毎回、自身の予習の成果を伝える、議論する、説得するといったことも徹底的に行なうので、これも自然と鍛えられます。

 後はこれも論理思考の一環ではありますが「戦略思考」と「意思決定力」。論理思考のベースに立った、ビジネス上の意思決定力といいましょうか。「あれもある、これもある。で、どうしようか、慎重に決めましょうね」ではなくて「こういう理由からこれが必要である、だから、このような形で実行する」というストーリーを構築し、決める力ということです。

 こうした左脳系スキルは当然身には付いていくわけですが、私自身が新鮮な驚きだったのは、左脳を鍛えるビジネススクールで、右脳的要素、つまり情熱とかビジョンとか、そういったところも、講師や学生たちとのディスカッションを通じて、大いに鍛えられたことです。やはり、忙しい中にビジネススクールに通ってくる人たち、グロービスの「創造と変革」というビジョンに共鳴して通ってくる人たちが多いので、個々が持つ「情熱」「思い」が非常に大きい、またそれをぶつけ合う機会が多い、ということと存じます。

――学んだことは卒業後、現在の仕事にどのように結び付き、生きましたか?

 ビジネススクールでの学びは、「僕のビジネス人生におけるすべてです」と言ってもいいくらい大きいです。これは大げさでなく、素直な気持ちです。そもそも、あらゆる職種において、マネジメントを行なっていく上で、こうした勉強を行なわずに優れた実績を残していくのは大変難しいと思います。

 もちろん、最後に重要なのは情熱、つまり右脳的要素です。でもその前には、左脳をしっかり働かせるスキルがあることが大前提だと考えます。逆にこうしたビジネススクールでの学び、それを通じて育成された左脳系スキルがあれば、「どんな仕事でもどんと来い」という感覚があります。

 実際、ビジネス上の成果にも常に生かされています。この左脳系スキルのお陰で、「日常的な仕事を行なう上でのアウトプット生産性は、実感で言えば4〜5倍くらいにはなってるな」という感じです。

 また、様々な実践的なスキルも学びますので、経営に関わるビッグプロジェクトなど実行のハードルが高ければ高いほど、学んだスキルが活用できます。

 例えば2007年秋から1年、年商50億円程度の、グループ内の別の事業を統合する社内M&Aの提案からインプリメンテーションまで、全ての責任者を「事業統合室長」というポジションで、しかも日常的な仕事と兼務で実行しました。統合後の事業戦略策定と実行、システム、物流といったオペレーション統合、組織再構築、といったすべての業務の立案と実行をスムースに遂行し、結果として統合事業の成長力を生み出すことができました。

 また、今、ある事業の責任者として事業戦略の立案、実行全般を担当しておりますが状況を整理し、進むべき道を作り進んでいく、そういう推進力を生み出せています。そうしたマネジメント力、実行力は、ビジネススクールで醸成された部分が非常に大きいです。結果として、仕事におけるポジションも確実にアップしています。

 振り返ってみれば、ビジネススクールに行く前には、こんなに仕事を楽しんでできるようになれるとは、想像もしていませんでした。日本企業の競争力を増すためにも、「ビジネススクールで多くの人が学び、私のような思いを味わいながら仕事に取り組めるようになってほしいな」と大げさではなく、心から思っています。

ひと物語

ひと物語はグロービス受講生や卒業生を取り囲む風景や現実を追い、ビジネススクールで培った知恵と羅針盤を手に、少しずつ歩みを重ねる姿をレポートする連載企画です。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年7月10日に掲載されたものです。ひと物語の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.