恋の第六感は本当にあるの? ヒトのフェロモンのお話現役東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”(1/2 ページ)

» 2009年05月12日 07時00分 公開
[森田徹,Business Media 誠]

 読者の皆さんはGWをいかがお過ごしだっただろうか。筆者は、ことあるごとにフラフラと書店に入り、例の黄緑本(『東大生が教える1万円からのあんぜん投資入門 』森田徹、宝島社)を探し、平積みになっていては胃を痛め、棚ざしになっていては胃を痛めで、とても休日気分ではなかった……。

 そんなわけで、GWは胃痛ばかりで遊んでいてもとても楽しめる気分ではなかった筆者は、ふとある慶應義塾大学の医学部生との会話を思い出し、いろいろと調べてみた。ファンタジー系ラブコメのお約束といえば愛の妙薬、惚(ほ)れ薬……もっと医学的に言えば「ヒトフェロモン」のお話である。

 話を始める前にまずは俗説から集めようと思い、友人にいろいろと話を聞いてみた。すると、男性視点で言えば、美人から香る甘い匂いや色気がフェロモンということでおよそ同意してもらえるようだ。だが、女性視点から言わせると(総じて女の子の方が熱く語りたがるのだが……)、男の背中からにじみ出る哀愁にフェロモンを感じる年下の女の子から夫の加齢臭にフェロモンを感じる年配のお姉様まで、十人十色、聞く相手によっててんでバラバラの答えが返ってきた。

 まったく、これではらちがあかない。ここは“かしこいフリ”の本コラムらしく、きちんと調べた方が良さそうだ。

そもそもフェロモンって

 さて、高校時代に「生物」を履修した方はおぼろげに覚えているだろうが、ここでフェロモンについて再確認しよう。フェロモンとは「生物に特異的な反応を引き起こす化学物質」のことである。より厳密には、他個体の特異的な行動を誘発する「リリーサーフェロモン」と、他個体の内分泌系の変化を促す「プライマーフェロモン」に分けられる。ファーブル昆虫記などを筆頭にその存在が古来より予想され、本コラムの冒頭でも登場する俗説的なフェロモンであるところの「性フェロモン」は、このうちリリーサーフェロモンに分類される。

 フェロモンに関する実証研究では、本能に忠実な昆虫などの研究が進んでおり、フェロモン以外の要素が行動に対して大きな比重を占める動物(ホ乳類)では実はそれほど進んでいない。ここでは、そのうち最も研究が進んでいるマウスの研究成果をもとに、もう少しディティールに踏み込んでみよう。

フェロモンの受容体「鋤鼻器」

 マウスの実験を見ていると「なぜ、こんな実験を思いついたのだろう?」と思うようなマウスの青春を奪うようなものが散見される。例えば、交尾相手以外の雄マウスのニオイをかがされると、雌マウスの着床が阻害されるブルース効果などだ。やはり、我々の科学の発展の相当部分はマウスの屍(しかばね)の上に築かれているらしい。

 さて、このマウスの実験でニオイの話が出ているように、マウスを代表とするホ乳類の場合は「鋤鼻器」(じょびき)と呼ばれる鼻の中にある器官によってなされる。鋤鼻器で受容されたフェロモンは、「副嗅球」(ふくきゅうきゅう)と扁桃体を経て視床下部に伝えられ、特定の行動を引き起こしたり(リリーサー効果)、内分泌系に変化をもたらしたりする(プライマー効果)。

 例えば、通常は尿の“ニオイ”によって縄張りを主張していると説明される犬のマーキングも、実はリリーサーフェロモンによる主張であり、その受容も厳密には鼻(嗅覚器)ではなくこの鋤鼻器によって行われているのだ。

マウスの鋤鼻器の図
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