コラム
» 2009年05月12日 07時00分 UPDATE

松田雅央の時事日想:環境先進国ドイツのエネルギー政策を読む――2020年に向けた10のビジョンとは(前編) (1/2)

資源に乏しいが、エネルギー源の国内確保を目標としており、かつ、脱原発のプロセスを進めているドイツ。ドイツ環境省は先日、エネルギー政策についてのロードマップを発表。2020年を見据えた10のビジョンから、ドイツ近未来のエネルギー戦略を浮き彫りにする。

[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)


 経済発展の基礎であるエネルギーの安定供給は絶対に保証されなければならないが、それが環境汚染に繋がることはもはや許されない時代となっている。改めて書くまでもなく、各国は気候変動を抑制するため、温室効果ガスの大幅な排出削減が求められている。そんな中ドイツは、資源に乏しくともエネルギー源を国内で確保することを目標としており、かつ、脱原発のプロセスも進めている。

 こうした難しい状況下、ドイツ環境省はこれからのエネルギー政策についてのロードマップを公表した。2020年を見据えた10のビジョンから、近未来ドイツのエネルギー戦略を浮き彫りにしよう。

ビジョン1:エネルギーの安定供給

 ドイツ国内で消費される一次エネルギー(動力・熱・電力に使われるすべてのエネルギー)の内訳をみると、計81.7%が石油・石炭・天然ガス、つまり温室効果ガスを排出する化石燃料である。世界を揺るがした国際エネルギー価格の暴騰は収まったものの、長期的には発展途上国の需要拡大を背景とした価格上昇は避けられず、化石燃料の70%を輸入に頼るドイツには価格変動のリスクが付きまとう。

 原子力発電用ウランの輸入依存度はさらに高く100%。経済面だけでなくエネルギー安全保障の立場からも、エネルギー輸入割合を減らすことがドイツの国是である。

ah_doiiti.jpg ドイツ国内で消費される一次エネルギーの内訳(2008年、%、出典:AGEB)

 エネルギー安定供給の戦略は、「再生可能エネルギーの開発」と「省エネと技術革新」という2つに集約される。

 電力買い取り価格を長期保証する「固定価格買い取り制度(フィードインタリフ制度)」、いわゆる再生可能エネルギー法(EEG)が効果を発揮し、風力、水力、太陽光、バイオマスの開発は着実に進展している。

 省エネと技術革新については、「コジェネレーション(熱電供給)の技術開発」「建物の断熱改修」「ハイテクを利用した柔軟で高度な電力供給」などが挙げられる。

ビジョン2:電力の30%は再生可能エネルギーで

 再生可能エネルギーの中でも特に風力発電のポテンシャルは高く、北海やバルト海の沖合いに多数の巨大風車を建てる「ウィンドパーク開発」が進行中だ。将来的に問題となるのは、風力発電が主要なエネルギー源となった際の安定性だろう。風力発電は文字通り「風頼み」。風がなければ電力不足、逆に風が強ければ供給過剰となり風車を止めなければならない。

 そこで検討されているのが500キロ離れたノルウェーまで海中送電線を敷き、揚水発電所にエネルギーを備蓄するという大規模な国際計画だ。平坦な北ドイツと違いノルウェーには揚水発電所の適地が多く、水量にも恵まれている。多数の揚水発電所建設による環境破壊という問題は残るが、AGEB(AGエネルギー収支協会)の試算ではこれにより西欧州全域で消費される数週間分の電力エネルギーを貯蔵できるという。

 風力と並び、太陽光発電も天候に左右される。しかしながら、風力、バイオマス、水力を含めて広域のエネルギー源をネットワーク化すればリスクはかなり軽減できるはずだ。また、情報技術を用いて「無風や雨天でエネルギー不足となったら家庭の洗濯機や食器洗い機を自動的に停止し、回復したら自動的に運転再開」といった賢いシステムの構築も可能だろう。

  • 消費電力に占める再生可能エネルギーの割合を14%(2007年)から30%以上へアップ
  • 内訳は風力15%、バイオマス8%、水力4%、太陽光1%未満

ビジョン3:50万人分のグリーン雇用創出

 再生可能エネルギー促進政策は環境技術産業を育成し、ドイツの国際競争力強化に役立っている。また、ドイツの厳しい環境規制は環境技術の水準を高め、これも結果として環境製品の競争力強化に貢献することとなった。環境規制の厳しさは必ずしも経済発展の足かせではない。

  • さらなる大気保護政策(環境規制強化)が新たな技術革新を生み、50万人分のグリーン雇用を創出
  • 大気保護技術の世界市場は2008年に比べ2兆ユーロ増加
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