コラム
» 2009年05月11日 16時32分 UPDATE

藤田正美の時事日想:次の大統領選挙がどうなるかは決まっている

世界の政治家で最も地位が安定し、力のある政治家は誰だろうか? その答えはロシアのプーチン首相だろう。現在のプーチン戦略は国民の支持を得ており、あるロシアの政府筋は“プーチンが大統領に返り咲く”ことを示唆した。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 ロシアの周辺が何かと慌ただしい。プーチン首相は今週日本を訪問するが、領土問題では期待するなとクギを刺している。プーチンという政治家はしたたかだ。

原油相場の上昇により、力を強めていくロシア

 2000年に開かれた九州・沖縄サミット。このときロシアを代表してプーチン大統領が来日した。最初から印象の深い首脳である。このサミットで、当初、米国はクリントン大統領が日程が合わないとして欠席、ゴア副大統領が代理で出席するとしていた。プーチン大統領はサミットに出席する前、北朝鮮を訪問して、金正日総書記と会談した。

 プーチンが金正日と会談して沖縄に来るとなれば、クリントンも沖縄に来て、米ロ首脳会談をやらざるを得ない。何も手みやげがなければクリントンはプーチンと個別に会談したかどうかも疑わしいが、プーチンは米国が一番欲しがる情報を携えて沖縄に来たのである。

 この時期、ロシアにかつての超大国の面影はまったくなかったと言ってもいい。1998年に通貨ルーブルの危機で、ロシアは経済的に“二流国”に成り下がったばかりか、国際政治の舞台でもすっかり影が薄くなっていた。プーチンの前任者であるエリツィン大統領は、ロシアに民主主義をもたらしたが、同時に混乱ももたらした指導者だった。

 そのプーチンが大統領になった2000年から、ロシアは経済的にも政治的にも存在感を強めている。その最大の理由は、原油相場の上昇だ。ロシアの財政は原油相場が上がれば、それによって歳入が増える構造になっているから、原油相場の値上がりはロシアの財政健全化に大きく貢献した。財政が潤うことで、ロシアの国民はエリツィン時代の苦しい生活から解放され、プーチンの支持率は70%前後ときわめて高い水準を保ったままだ。

 このことは逆に言えば、ロシアが強いロシアで在り続けるためには、原油価格は高い方がいいということになる。同時に原油と天然ガスというロシアの政治的「武器」を生かすためには、プーチン首相もメドベージェフ大統領もあらゆる手段を用いるだろうということにもなる。

ロシアにとってグルジアはエネルギー戦略上要衝の地

 2008年、北京オリンピックの最中に始まったグルジア紛争(関連記事)。フランスの仲介で何とか収まったものの、火種はくすぶったままだ。2009年もグルジア軍部の一部でクーデター計画があったとかで、首都トビリシで反政府デモも続いている。

 グルジアやウクライナは旧ソ連の諸国。ロシアにとっては「身内」であって、それらの国がNATO(北大西洋条約機構)に取り込まれるなどということは断じて許すことはできないだろう。だからグルジアには介入し続けるし、できれば親西欧政権である現在のサーカシビリ大統領は放逐したいところだ。

 グルジアはさらにロシアのエネルギー戦略上要衝の地でもある。カスピ海あるいは中央アジアの原油はパイプラインで輸送されるが、それらのパイプラインで最も南のルートを通る場合はグルジアからトルコ経由。そこから地中海に積み出されて輸送される。ロシアにとってはこうしたルートよりも自国内をパイプラインが通過してくれた方が、西欧に対して睨(にら)みが効く。実際、2009年も天然ガスでウクライナと衝突して、結果的に東欧を中心にガスの供給がストップしたことがあった。ヨーロッパはガスの20%以上をロシアに依存しているのである。

世界の政治家で最も力があるのはプーチン首相

 こうした背景があって、ロシアは中央アジアにも、コーカサス山脈の南側の諸国にも影響力を強めようとしている。もちろんそのためには軍事も重要な要素。軍事パレードを今年大々的に行ったのもそのような意味があるだろう(このあたりでは中国との利害関係も微妙なところである)。

 そして現在のプーチン戦略は、明らかに国民の支持を得ている。やり方が民主主義的であろうとなかろうと、社会の混乱よりは生活水準の安定の方が国民にとっては重要であるからだ。

 あるロシア政府関係者が、最近、個人的意見と断りながら、こういった。「次の大統領選挙がどうなるかは決まっている」

 「それはプーチンが大統領に返り咲くということか」と聞くと、「まだ若いからね。また8年(2期)はやれるだろう」

 世界の政治家で最も地位が安定し、最も力のある政治家はおそらくプーチン首相である。オバマ大統領は世界最強の国の大統領ではあるが、任期は8年に限られている。それに経済が疲弊している。プーチン首相の周辺諸国はその豪腕ぶりをどのような思いで眺めているのだろうか。

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