REIT上場から7年半――不動産取引が市場化された意味とは財務で読む気になる数字(2/2 ページ)

» 2009年05月08日 19時35分 公開
[斎藤忠久,GLOBIS.JP]
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不動産の自己保有をポートフォリオ理論で考える

 不動産も一般の金融商品と同じようにリスクのある商品となったわけであるが、それでも依然として、土地付きの一戸建てやマンションを持ちたがる人が後をたたない。これは、ファイナンス理論からみて、どう考えるべきであろうか?

 ファイナンス理論の一分野であるポートフォリオ理論では、「リスクのある単一資産に全財産を投入すべきではなく、リスクを軽減するために色々な資産に分散投資せよ」と教えている。しかし、分散投資するだけの資産を持たない個人が全財産を投入し、さらにその何倍ものローンを借りて自宅を購入する(頭金が5%であれば、借入金はなんとその19倍となる)動きは一向に止まらない。昨年の金融危機による不動産不況を受けて不動産価格は下落しており、今や「一戸建てやマンションはお買い得」とも言われているが、これは株式の信用取引やFX(外国為替証拠金取引)のようなハイレバレッジの金融取引と何ら変わるところはない危険な(しかし魅力的な?)投機的取引である。

 しかしながら、不動産の自己保有はいくらファイナンス理論的には無謀でも、株式やFXと異なり「自宅を保有しているという、金銭には換算できない満足感」を与えてくれる。「人はパンのみにて生きるにあらず」という言葉が象徴するように、人間は論理的な合理性だけでは割り切れない複雑な感情をもった存在であるということであろうか。不動産は人間のリスク感覚を麻痺させるだけの魔力をもった魅力的な資産なのかもしれない。

 私が教える経営大学院のファイナンスのクラスでこのような話をすると、学生から「それでは先生は持ち家を持っていないのですか?」という質問を必ず受ける。私の答えはいつも決まっており、「はい、その通りです。家は買わずにずっと賃貸住宅に住んでいます。実践の伴わない理論は説得力がないですから」。

 しかしながら本音を言えば、月曜日から金曜日までは都心の賃貸アパートに住みながらも、できれば週末には好きなフライフィッシングができる清流のほとりに小さな別荘を持ちたいと考えている。20年来の夢であるが、ファイナンス理論を教えている限りは矛盾する行動であり、なかなか実行できずにいる。ファイナンス理論を教えるということは楽しい反面、辛いことでもあり、グロービス経営大学院がマスの泳ぐ清流の近くにキャンパスを開設する日を心待ちにしている。

斎藤忠久(Tadahisa Saito)

東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業後フランス・リヨン大学経済学部留学、シカゴ大学にてMBA(High Honors)修了。富士銀行(現在のみずほフィナンシャルグループ)を経て、富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、ナカミチにて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。

その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役を経て、現在エムティーアイ(JASDAQ上場)取締役兼執行役員専務、コーポレート・サービス本部長。


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