著者プロフィール:石塚しのぶ
ダイナ・サーチ、インク 代表取締役。1972年に南カリフォルニア大学修士課程卒業、米国企業で職歴を積んだ後、1982年にダイナ・サーチ、インクを設立。以来、ロサンゼルスを拠点に、日米間ビジネスのコンサルティング業に従事している。著書に『「顧客」の時代がやってきた!「売れる仕組み」に革命が起きる』(インプレス)がある。
米国で熱く繰り広げられるプレミアムコーヒー戦争。マクドナルドやダンキンドーナツなど、シェア剥奪を狙う競合のスタバ攻撃は過酷だ。
近頃、何を読んでいても、スタバ不調のストーリーで持ちきりである。自ら引き起こした「ブランド破壊」が顕著になっているのは本国の米国だけかと思っていたが、日本でも同様な展開になっているらしい。
不況のご時世で、最近、米国の広告・マーケティング業界からは派手な話題がめっきり減っているが、そんな中、唯一、目立っているのが「プレミアムコーヒー」市場をめぐる、スターバックス、マクドナルド、ダンキンドーナツの壮絶な覇権争いである。
「覇権争い」なんて、ご大層な言葉を使うと聞こえはいいが、その実態は「弱って倒れているスタバをこれでもかと蹴飛ばす」、競合他社の容赦ない「いじめ」の域まで達している。比較広告が合法の米国ではとりたてて騒ぐほどのことでもないのかもしれないが、日本人の私の目には、ちょっと「えげつない」とまで感じられてしまう。
ことの起こりは、2008年の10月、ダンキンドーナツが立ち上げたWebサイトだ(ダンキンがスターバックスに勝った)。この中でダンキンドーナツは、全米主要都市で行われた試飲テストで、過半数が「ダンキンのコーヒーがスターバックスよりおいしい」と判定したことを公表。「この真実をみんなに広めよう!」と、辛辣(しんらつ)なジョークたっぷりのeカードを無料で送信できる機能まで盛り込んだ。
さらにショッキングだったのは、その2カ月後にお目見えしたマクドナルドのビルボード。その広告コピーはずばり、「four bucks is dumb.(【エスプレッソ】1杯に4ドルはバカだ)」。そこまで言うかと私は絶句したのだが、マクドナルドはなんと、このビルボードをスターバックスのお膝元であるシアトル近郊を中心に設置したのだ。
これを、いじめと呼ばずに何と呼ぶのか。そう思っていたら、今月の5日には、マクドナルドの全米キャンペーンが盛大なファンファーレとともに開始された。今年、マクドナルドは「McCafe`」というブランド名のもと、モカ、ラテ、カプチーノなどのエスプレッソドリンクを全米1万4000店舗で販売開始するが、その認知向上を狙い、テレビ、ラジオ、雑誌、屋外媒体、Web、SNS(Social Networking Service)などマルチメディアを総動員した超大型キャンペーンである。そのキャンペーン予算は推定1億ドル(約100億円)。
減収、閉店が続いている米スターバックスに対し、不況知らずの勢いで売り上げを伸ばしているマクドナルドは、これでもかと全力で“ボディブロー”を食らわせる。スターバックスの年間マーケティング予算は、前述マクドナルドのわずか4分の1しかない2600万ドル(約26億円)。これを見ただけでも、図体のでかいガキ大将が、体の弱いもやしっ子をいじめにかかっているような印象を受けるのである。
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