“ネットと政治”を考える(後編)――ネットユーザーが選挙でやれることとは?(5/9 ページ)

» 2009年05月05日 07時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

政治家はブログをどう見ているのか

 河野さんと鈴木さん、実際に政治活動される中で、ブログをどう見ていらっしゃるのでしょうか?

河野太郎公式Webサイト

河野 地元で国道134号線と西湘バイパスを1年に1回お借りして、湘南国際マラソンをやっています。マラソンで走った方や応援に来た方の中にはブログにいろんなことを書いてくださる人がいるので、大会が終わると片っ端から検索をして読んでいます。ほめていただいているところはいいのですが、どういうところがけなされているのかというのを集めて、「来年の大会はそれを全部つぶしてやろう」と心がけています。

 また、少し前まで湘南ベルマーレというサッカーチームの会長を務めていて、「見に来てくださる方がどういうことに興味を持っているか」というのをやはりネットで検索して、「こういうこともやらないといけないかなあ」と参考にしていろいろやりました。そういう意味では非常に便利なツールだと思っています。

 しかし(ブログに書かれる)マラソンやサッカーチームに対する思いと、後期高齢者医療制度のような政策への思いとの間にはギャップがある気がしています。「政策の説明が政治の側できちんとできていない」と感じています。どうも政策の説明はマスメディアにとられてしまっていて、マスメディアの報道の通りに見られてしまっているという気がします。

 もう1つ、私は政治家ですから「あいつは嫌いだ」「あいつはバカだ」「あいつの言ってることは支離滅裂だ」と書かれることはあると思うのですが、「事実関係がまったく違っているものが伝わっていってしまうことはどうにかならないか」と思います。ミクシィだと「マイミクがこう言っていました」というのが多くて、「マイミクは必ず正しいのかというと多分そんなことはない、と思ってくれるだろう」と考えていても、そうはならずにどんどん伝わってしまうのは困ったものだなという気がします。

 その点、新聞やテレビは間違ったことをすると社会的な制裁がありますし、裁判沙汰にもなるので裏は確実にとらなければいけないというところがあって、一応事実誤認はあまりないというところは安心できると思います。しかし、(新聞やテレビでは)限られたものしか扱ってくれません。最近ようやく臓器移植法の話題が新聞やテレビに出るようになりましたが、ネットではこの10年、薬の話から法律を何とかしないといけないとか、いろんな方が取り上げていました。一般の大きなメディアでは今話題になっていますが、半年前にはまったく取り上げてくれなかったというような波があるので、この2つの特色をうまく生かさなければいけないかなと思っています。

鈴木寛公式Webサイト

鈴木 ネットとマスメディアという話で申し上げると、河野さんもおっしゃられたのですが、「裏取りをちゃんとしたネットメディアがどう成熟していくか」ということがこれからの課題だろうと思います。

 一昨日、道路特定財源の一般財源化法という法律が可決されて、2兆5000億円の道路特定財源が一般財源化されて、今年は600億円が社会保障費に回されます。そして昨日、高校無償化法案というのが通りました。年間所得が500万円以下の家庭の子どもの高校の学費を無償化すると年間1500億円かかります。「2兆5000億円のうち1500億円を教育に回せばそういうことができる」という割と真っ当な議論を国会でやって通ったのですが、このことをどれだけの国民の皆さまが知っているかというと多分知らないと思います。我々は記者会見もしているし、でも記者さんはあまり来ませんし、今日新聞を見てもあまりこのことは報じられていない。そうすると僕たちはどうしたらいいんだろうかと。

 政局の話は、どこかのパーティで小沢さんの悪口を誰かが言うと、15分くらいのあいさつの中で15秒くらいその部分があっただけでも、新聞の3分の1面くらいになります。しかし、この話(道路特定財源の一般財源化法や高校無償化法案)はお互い(与野党が)相当真面目に半年とか1年とか議論をしてきて、その成果として国会の審議にかけられたということなのですが、そのことについては皆さま方に伝わらない。これは自民党も民主党も同じフラストレーションを感じながらやっているんだと思います。

 また、政局を超えて、民主党と自民党、あるいは公明党が手を組んで、「医者の数を増やしましょう」「弱視の皆さまのための拡大教科書を増やしましょう」「インフルエンザを発症していなくてもキャリアの人は成田空港で止められるようにしましょう」と、そこそこ良いことを医療や教育の分野では超党派でやっているつもりなんですね。喧嘩すると、すぐ(メディアに)出るのですが、仲良くするとまったく無視されるという中で僕たちはどうしたらいいのかなということです。

 「報道されようがされまいが、いいと思ったことはやる」というのは、私は(任期が6年と長い)参議院だからできる、河野さんは選挙に強くて信念がある立派な政治家だからできるわけです。しかし現実問題、当落すれすれの衆議院の新人候補ともなれば「何でもいいからテレビに出る」ということになってしまうわけです。

 ここに裏取りをした健全なネットメディアのようなものが、もう1枚加わっていただきたい。「ネットかマスメディアか」という議論をしても不毛で、マスメディアがある中にネットというものが1枚加わると、メディアミックスのパターンが増えるわけですから、そこをうまく(やろうよ)ということです。

 また若者の話ですが、佐藤さんのドットジェイピーの話をパクッて申し訳ないのですが、絶対選挙に行くという人はインターンシップ前には4割くらいですが、インターンシップ後には9割になるんです。だから、若者は選挙に行くんですよ。たぶん1回でも講演を30分させていただいたら、聞いてくれた若者は選挙に行くと思いますよ。僕は例えばインターンシップをやっている若者にテレビ番組を作ってもらうといったことだけでも大分変わるという気はしています。

 また、米国と同じような制度にいきなりはなりませんが、順を追ってできることはいっぱいあります。「何からどういう順番でやっていこうか」「なぜできないのか」という議論をしていても仕方がなくて、「これだったら来年からできる」「これは3年後からできる」という具体的なアクションプログラムを皆さんと作っていきたいと思っています。

 重要なことは10個くらいあるのですが、例えば大企業では「政治活動、宗教活動は行わない」とサインさせられて入社するんです。これは米国とは全然違います。米国では必ず「君は何党支持?」と聞いて、政治の話をする。でも日本の大企業ではそれが禁句ですよね。これは変えないといけない。

 それからその前段ですが、日本は政治教育をやってきませんでした。教育基本法14条で「政治教育をやらない」と書いています。例えばフィンランドとか行くと、高校の中に日本で言えば自民党支部みたいなものと民主党支部みたいなものがあって、模擬ディベートや模擬投票をやったりして、18歳になって選挙権を持った時にスムーズに移行できるようにというようなプログラムを準備しています。そういうことを全部遠ざけてきた結果が今だということだと思います。

 個人的には私がいた高校では新聞部が左で、生徒会が右でいつもチャンチャンバラバラ予算とかでやったりして、非常に勉強になった記憶があるのですが、「そうではない学校ってきっと多いんだろうなあ」と思います。

鈴木 それは実は極めて重要な問題です。楠さんは私立(高校出身)なんですよ。今、名門と言われている大学の社会系学部が私立高校の卒業生に過半数を占められているというのは、私立というのはそういうこともやっているところが多いんですね。「ああ、政治面白いな、経済面白いな。そういうのを、もうちょっと勉強してみよう」ということになるのです。

佐藤 鈴木さんがおっしゃられたように、日本では長らく政治教育をやってこなかったので、「インターンシップに参加しようという学生はバリバリの政治家志望、ある種の政治オタクで、とても普通の学生ではないのではないか」と想像されるかもしれません。しかし、インターンシップに参加してくれる学生のほとんどは、民間企業への就職を希望しています。「議員に会いたいから来ている」のではなくて、「インターンシップに参加したいから来ている」学生の方が多いのです。

 というのは、社会背景として大学や先輩が「インターンシップに行っておいた方が就職で有利になるよ」と指導するわけです。「何とかインターンに行きたい」と思ったものの、パナソニックやソニーのインターンシップは狭き門で行けない。それでネットでいろいろと検索してみると、ドットジェイピーが議員インターンシップをやっているらしい、しかも応募者がほとんど参加できるらしい、とりあえず行ってみようかなという人が多いのです。

 これは我々は「良し」としています。どんなきっかけであれ、政治の扉を開いて接点を持つということは、政治教育をする上で非常に重要だと思っているからです。ある種の不純さがあってもとにかく触れてみれば、政治の世界というのは本当にエキサイティングな職場だし、意義の高い仕事をやっていらっしゃって絶対に感動するはずだと思っています。ですから、「不純な動機で結構ですから、まず見てください」と言って、見た上で批判するのであれば批判されたらいいと思います。

 もちろん見た上で批判する場面もあるのですが、大体みんな感動して帰ります。鈴木さんがおっしゃったように1通常国会当たり100本くらいの法案が出ますが、そのうちの8〜9割は与野党が手を組んで審議するためすんなり通過して、ごく一部の法案で与野党がバチバチ拮抗してバトルを繰り広げます。バチバチやっている法案のことしか情報を受け取らない人が多いので、「日本のことを思って、地域のことを思って、こんなに与野党が実は仲良くやっているんだ」とインターンシップに参加する学生は結構驚いています。

 また、僕は自分の会社の情けない部分を申し上げないといけないのですが、リピーターはほとんどいません。つまり、「最初、河野さんにお世話になって自民党のことはちょっと分かりました。じゃあ次は民主党に行ってみよう」と鈴木さんの門をたたく学生はいないわけです。

 どういうことかというと1回ルートができてしまえば、「紹介してください」とおねだりすると大体紹介してもらえるようになるからで、ドットジェイピーの存在は不要になってしまうからです。11年やっていますが、全然リピートしないんですよ。でも、人生で1つのきっかけを与えるという意義はあるということで「まあいいか」と思っています。

 インターンシップに参加した学生たちは次なるアクションとして、その議員の誕生パーティに参加したり、選挙があって一大事ということであれば同窓会のようにみんな駆け寄ってきて応援するようです。1回恩を受けた人はその先生が本気で戦っているフィールドで選挙が重要というときに無視はしなくなる、ということがインターンシップ制度の仕掛けということだと自分で理解しています。

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