“ネットと政治”を考える(後編)――ネットユーザーが選挙でやれることとは?(2/9 ページ)

» 2009年05月05日 07時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 続いてNPO法人ドットジェイピーで議員インターンシップを進められている佐藤大吾理事長、また違う側面から選挙などを見ていらっしゃると思うのでよろしくお願いします。

NPO法人ドットジェイピーの佐藤大吾理事長

佐藤 私は20代を中心とした大学生が、国会議員や地方議員の事務所で2カ月間のインターンシップを経験するというプログラムを運営しています。10年間くらいやっている活動なので、かつで学生だった20歳前後の学生が今は30歳前後になっているので、30人くらいの当時の学生が今では議員をやっています。

 大体8000人くらいの学生を議員事務所に紹介してきたのですが、なかなか投票率は上がってきません。そこで、もうちょっとマスに訴えかける必要があるだろうということで、2006年2月から「Yahoo!みんなの政治」というサイトを、ヤフーさんと一緒に運営させていただくことになりました。

 Yahoo!みんなの政治では国会議員事務所の方々に協力いただいて、すべての法案の賛否情報をすべての政党からかき集めてきて、それぞれの議員の先生方から賛否に関する理由や、自分が思っている普段の生活のコメントをかき集めてきて、それをインターネット上でどんどん見せています。そうすると有権者は情報を入手しやすくなるので、「自分の関心領域の法案に賛成している議員は誰だ」「その理由はなぜだ」ということを見ていけるということが目的になっています。つまり、「投票率を上げていくにはどうしたらいいか」ということをあの手この手を使ってやっている団体です。

 自己紹介はそれくらいにして、ネット選挙解禁(について話すと)、皆さんご承知だと思いますが、ネット選挙が解禁されないと選挙に関してブログが更新しづらいということになります。

 第1部の説明に1点補足させていただきたいのですが、「公職選挙法では候補者のみならず、なんびとも規制対象になる」というところが重要なポイントになっています。「俺は選挙関係ないよ」という人も、「あの人に1票入れよう」と書くと規制の対象になってしまうので、ブロガーの皆さんはお気を付けください。

 私は公職選挙法の勉強会を1年以上、毎週1回2時間ずつ行いました。1条から275条まで逐条で勉強したのですが、正直よく分かっていない部分がいっぱいあります。これには理由があります。1条、2条、3条と順番に勉強していって、「どう解釈すればいいんだろう」とつまづいた時には、担当する総務省に電話をします。電話をして、「こういう風に書いているけど、どういう意味ですか」と聞くと、総務省の方々もスムーズには答えられない。その場で答えてくれるケースの方が少なくて、持ち帰りになって、しばらくすると「こうだと思います」という返事が返ってきます。しかし、都道府県がやっている選挙管理委員会にも同じ質問をぶつけてみると、解釈が異なっているというケースがよくありました。

 最終的に何とおっしゃるかというと「最後は捜査機関が決定する」、捜査機関とはつまり警察です。しかし捜査機関には決定権はないので、「一応捕まえてみて、最終決定権は司法の判断に委ねる」ということが選挙管理委員会の回答になります。誤解があると申し訳ないので一応補足すると、選挙管理委員会は選挙をスムーズに行うための組織で、市民を窮屈にするための組織ではありません。「危ないかもよ」ということを親切心で「やめておいたらどうですか」とおっしゃっていただいているだけなので、特に悪意があって「やめろやめろ」と言っているわけではありません。

 「そもそも何のために公職選挙法があるのか」ということをさかのぼって勉強すると、「お金がかからない選挙を実現するためにこの法律があるんだ」ということです。むやみやたらとビラをまいてもいいとか、むやみやたらと人をいっぱい使ってもいいとすると、お金を持った人が有利になってしまうので、「不公平にならないよう、お金がかからない選挙をやろう」ということが1つの理由となってできた法律と聞いています。

 それならば、「安く多くの人に情報を届けるツールとして、ネットを利用することはとても良いことなのではないか」と思います。河野さんのコメントにあったように、専門のスタッフを置いたり、かっこいいホームページにしたりするとお金がかかります。しかし、「フリーウェアを活用するなどちょっとした工夫をすることで、お金がかからない選挙は十分実現できるのではないか」と思います。

 私も学生当時に、選挙運動をいくつか手伝ったことがあります。そこで、会計報告を見ていると、印刷費に結構お金がかかっていたりします。「ネットで見るから、紙ではいらないよ」と言ってくれる人の分のコストを減らせると、どんどんお金がかからなくなっていくということもあるので、そういったことができればなと思っております。

 河野さんがおっしゃったことと同感なのが、「ブログの更新OKにしようよ」といったようにネット選挙を解禁することですべての問題が解決されるとは思わないことです。選挙期間はたった12日間しかないので、そこでどうのこうのやっても投票率がぐんと跳ね上がるとはとても思えません。「公職選挙法そのものを全部見直す機会にこの場がなればいいな」と思っています。

 次にこのイベントのスポンサーをされているフォーナイン・ストラテジーズの西村豊代表。自己紹介とどういった問題意識でこのイベントを企画されたのかお話していただけますか。

フォーナイン・ストラテジーズの西村豊代表

西村 私たちは「ブログ読み比べリンク集!Blog-Headline」というものをやっています。ブログは「この人はこう書いている」「こういうことについてはこう書いている」と縦に読むことは簡単ですが、あるテーマについて「この人はこう書いている」「あの人はこう書いている」と横に読むことは難しいので、それを読み比べられるような仕組みを作っています。しかもそこに投票性をつけて、閲覧者が面白いと思った記事に投票してもらうと、その記事が見やすい位置に上がるという仕組みも組み込んで展開しています。

 ネット選挙解禁運動に関しては、政治家さんのためというよりも有権者の政治参画意識を高めるため、ネット選挙運動解禁をきっかけに、ネガティブキャンペーンではなく、政策などをきちんと皆さんで話し合えるような自由で健全な場が作れたらいいなと思って始めました。

 2008年春に団体を作り、月1回くらい勉強会をして、河野さんや佐藤さんにもお越しいただいたり、2008年4月20日にはゴーログの木村剛さんもお呼びしてJANJANさんとシンポジウムを開いたりしていました。その後政局がごたついていた関係で、政治家の先生をお呼びできなかったのですが、今回無理を言って両先生にお越しいただいて、アジャイルメディア・ネットワークさんの協力によってこのイベントをやらせていただくことになりました。ネット選挙運動についていろいろ前向きに考えていければと思います。

 鈴木寛さんは早くから「Suzukan.TV」というネット中継や、Second Lifeに選挙事務所を構える(参照リンク)といった取り組みをされていらっしゃいました。自己紹介と、ネットで活動していく上で今の選挙制度にどういった課題があるかを話していただけますか。

参議院議員の鈴木寛氏

鈴木 私は今、民主党でインターネット選挙活動調査会の会長をしていまして、民主党はもう4回ネット選挙の解禁法を国会に提出しています。また、2009年1月5日まで参議院の政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会の委員長もしていました。既存のマスメディアを通じた情報には偏りがあり、それを補う有力なコミュニケーションツールがネットだと私は思っているので、なるべく早くほかの国と同じようにネットが活用できるようにということをやってきています。それに加えて、これから個人献金を進めていく上で「ネット献金をどうしていくか」ということも課題だと思っていて、皆さんのお知恵を借りてやりたいと思っています。

 大きく言うと(ネット選挙解禁の)課題は2つあります。1つ目は法律上、制度上の問題で、日本の公職選挙法にはやっていいことしか書いていません。「書いてあること以外のことはやれない」「やっていいことを限定列挙主義」という作り方になっているので、これはやめないといけない。「やってはいけないことだけ書いて、その時々のいろいろなコミュニケーションツールの進歩というものを即座に取り入れられるような制度が必要だ」と思っています。

 2つ目は国民の皆さんの政治に対する意識を変えていかないと、ネット選挙を解禁しても新たな混乱を生む可能性があります。これは法の話ではなく、文化や意識の問題だと思います。「ここをどうやって変えていくか」ということはものすごく大事だと思っています。ドットジェイピーさんが議員インターンシップをやっておられるのですが、インターンシップ前後で若者の意識は劇的に変わっています。インターンシップをやる前は「政治というのは汚いもの」「議員というのはひどい奴」という意識で、良いイメージを持っている人は20%。それがインターンシップの後には見事に逆転して、良いイメージが80%になります。20%は低すぎるし、80%も高すぎると思いますが、それは「いかに既存のマスメディアが、一部の情報しか伝えていないか」ということではないでしょうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.