自分の会社の業績って知ってる? 就活にも“ツカえる”決算のかじり方現役東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”(2/4 ページ)

» 2009年04月28日 07時00分 公開
[森田徹,Business Media 誠]

アイティメディアのケース

 先ほども書いたように、決算短信は四半期から半期に1回作成されるのだが、時期によって詳しさがやや違う。基本的に事業年度末、アイティメディアの場合なら「平成20年3月期 決算短信」と書かれている短信が、最も詳細に作られている。

 だから“読み物”としても、直近のもの(現在のアイティメディアならば「平成21年3月期 第3四半期決算短信」)のほかに、前期末のもの(「平成20年3月期 決算短信」)の2つに目を通しておいた方がいいだろう。

 さて、ここでまず読んでおきたいのは2ページ目以降の「定性的情報・財務諸表等」である。基本的には一番最初の「1.連結経営成績に関する定性的情報 」だけ読んでおけばいいだろう。定性的情報とは「数字を使わない情報」全般のことで、基本的には当該企業の経営状況の現状認識が書かれている(投資家視点からは正解でない認識である場合も多々あるが、就活生的な模範解答である点は間違いない)。

 アイティメディアの「平成21年3月期 第3四半期決算短信」では主に以下のようなトピックに触れている。

  • 不景気による顧客の広告費の圧縮による売上低下
  • 今は顧客単価の高いターゲティング・メディア事業への注力
  • 動画サイト(zoome)の買収
  • iPhone対応への注力
  • 結果的に、ニュースサイトのビュー数もターゲティング・メディア事業の会員数も増えているが、顧客の広告費圧縮で苦しい

 これだけでも、当該企業の当面の課題と経営戦略の一端を垣間見ることができる。さらに「御社の弱み」や「改善点」にからんで目を通しておきたいのは、年度末決算短信など詳細な決算短信にのみ書かれている「事業等のリスク」だ。これは、当該企業が自分で認識している弱みそのものである。

 アイティメディアの「平成20年3月期 決算短信」の「事業等のリスク」ではa〜qまで17項目にわたって事業リスクについて語っている。要約して主なものを列挙すると、大体こんな感じだ。

a. まだ若い会社だから過去の経営成績のみで業績が判断できない

b. インターネット広告収入に依存しているため、業界全体のIT投資が細ると経営難に

c. 広告代理店が手数料の値上げを要求してくると売上減

e. 重要な事業提携先である「TechTarget」との関係が悪化しうる

p. 親会社であるソフトバンクの経営方針が変わりうる


 実際問題としてアイティメディアが直面している課題は“金融危機による広告出稿の低迷による売り上げの減少”で、戦略としては“インターネット広告への過依存(8割方は広告収入)からの脱却のための事業の多角化”だろう。これはmixiなど、ほかのインターネット型メディアのビジネスモデルに共通することだから、わざわざ決算短信を読むまでもないという話でもある。

 とはいえ、ここの書き方1つだけでも相当その会社の「経営陣の性格」というものが見えてくるので(将来に対して強気か弱気か、経営成績について言い訳がましくないか、夢見がちなことを言っていないかなど)、そういった視点で読んでみると読み物として面白いという面もある。

 それに、企業の弱みというのは就職雑誌などのメディアは往々にして書きにくいことも多い。だから、具体的な弱みが見あたらないときは決算短信をあたるのも1つの手だろう。

 特に在庫の増加や顧客単価の下落など、外部からはなかなか見えづらいことに経営陣が悩んでいるときは、面接相手が管理職に近ければ近いほどそれに触れればウケが良くなるという話もある。

 例えば先日、アパレルに注力している某大手百貨店の就職面接を受けるという友人に助言を求められたので、「どこかでサラッとだけ在庫の積み上がりについて触れた方が良い。この時期、高級志向のアパレル系だったら絶対に悩んでいるはずだから」とアドバイスすると、若手社員の反応はイマイチだったようだが、幹部クラスのおじさま方には大ウケだったそうだ。面接直前に株価の数字を覚えるくらいなら誰にでもできるので、やはり他の就活生と差を付けるのならばこういったところだろうか。

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