飲食業トップの利益率 日本レストランシステムの強みを分析してみた岡村勝弘のフレームワークでケーススタディ(3/3 ページ)

» 2009年04月27日 16時00分 公開
[岡村勝弘,GLOBIS.JP]
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グループ経営によるバリューチェーンの一元化

 外食チェーンが、仕入れを一本化し、規模の経済によるコスト低減や品質の担保などを目指すのは当然のことではあるが、日レスは、それを更に一段、システマチックにしている。それが、「グループ経営によるバリューチェーンの一元化」だ。大林氏の弁を借りれば、同社では、「八百屋も肉屋も自前」にしている。具体的には、傘下の「日本レストランベジ」や「日本レストランフーズ」が食材の仕入をし、それらを「日本レストラン・コンフェクショナリー」や「日本レストランプロダクツ」が一次加工。さらにそれを先に述べた自社のセントラルキッチンやケーキ工場で調理し、「日本レストランデリバリー」が(ドミナント化によって配送効率を上げた)各店に納品して回る、というように、原料を加工し、顧客に提供するまでのバリューチェーンを全てグループ傘下の企業で回している。

 このメリットは幾つか上げられるが、1つは単純に、商社や卸などへの中間マージンが発生しないことだ。大林氏は、「一連の内製化で、利益率は3%上がっている計算になる」としている。また、店長などに、「原価率の悪化は野菜が高かったため」と、外部要因を言い訳とさせない抑止力にもしている。つまり、「野菜の仕入値が一番変動することは確か」だが、大概において、真因は「管理ミス、つまりロス」というのが同社の分析であり、各店が、自前の“八百屋”、 “肉屋”を通じて、年間を通じて同じ値段で原料を購入できるようにすることで、責任の所在を明確にしたのである。その上で、“八百屋”や“肉屋”は、年間を通じて季節変動などによる価格変動を相殺できるよう、各アイテムの標準価格を設定している。

 加えて、徹底した「データ主義」が目を引く。その1つが人事売上管理だ。人件費を総体で管理するのではなく、1人当たりの時間当たり売上を元にした標準化基準(人時売上げ標準曲線)を作り、個々の人員や管理者の考課、さらには不採算店の改善や撤退の判断などに用いている。製造業などでは当たり前に見られる管理手法だが、飲食店などのサービス業においては、効率性と顧客満足が時に相反することなどから、日レスほど浸透させている企業は少ない。

 ……料理の達人や有名人が作った特別の料理ではなく、特別に高級でも、特別に低価格でもなく、でも、繁華街の一等地を探せば必ずあり、値段の割に味もサービスも良い、総合力の高いレストランチェーン。それが日レスの姿だ。目立つところがない分、強さの源泉はつかみにくいが、こうして背景に用意された仕組みを見ていくと、総合的なオペレーショナル・エクセレンスを強みに勝ち上がってきたことが容易に感じ取れる。そして、それが変化の激しい外食事業における、確かな勝ちパターンの1つであることも同時に感じられるだろう。

 先般、日レスはドトールコーヒーと合併してホールディングカンパニーとなったが、果たして両社は、次の成長・繁栄を築いていくことは可能なのだろうか。日レスの卓越性は、ドトールコーヒーとどのような親和性を描けるのだろうか。今後の経営を注視したい。

著者プロフィール:岡村勝弘

静岡県生まれ。京都大学農学部卒業。農林水産省、リクルートののち35歳で独立起業。Y&Kカンパニーズ代表取締役(ソフトウェア企画制作販売)、アクセス(iModeのブラウザ開発)、Amazon.com(日本進出)、Apax Globis Partners(ベンチャー・キャピタリスト)。現在、有限会社トレジャークエスト代表取締役。丸の内ビジネス人勉強会主催。著書に『ロンおじさんの贈りもの―30日間ビジネス・レッスン』『ビジネス・バカを極めろ』。


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