コラム
» 2009年04月27日 07時30分 UPDATE

藤田正美の時事日想:日本経済に“薄日”は差しているのか? 答えは「No」である

先日、ある新聞の見出しに「世界経済安定の兆候」と書かれていた。記事中の見出しには「下振れリスクなお継続」とバランスをとっていたが、本当に世界経済は安定に向かっているのだろうか。少なくとも日本については“楽観的”になれないだろう。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 4月24日にG7(先進7カ国中央銀行・財務相会議)の共同声明が発表された。25日付け日本経済新聞夕刊の1面の見出しを見ると「世界経済安定の兆候」とある。そして「下振れリスクなお継続」とややバランスを取るような見出しが本文記事の最初に付けられている。

 もちろんどこまで落ちるか底が見えなかった経済動向にやや下げ止まりの気配があるのは事実だろうと思う。しかしこれで年内にも回復へ向かうというほど楽観的にはなれない。

 日本のことだけを考えても、不況から回復して好況になるのだろうか。典型的には自動車産業を考えてみればいい。2008年の日本の自動車販売台数は軽自動車も含めて500万台強。日本の自動車市場がピークを付けたのは、1990年でそのときは780万台だったから、36%減ということになる。現在の景気後退が終わったときに、クルマの需要がやがてはピーク時を超えるのかということだが、所与の条件が大きく変わることがない限り、その可能性はゼロだ。

 つまり、クルマの需要減は景気循環に伴う現象ではないということである。もちろんクルマの需要からすべてを推し量るのはあまりにも乱暴な議論であることは重々承知の上で言うと、日本経済は今やパラダイムシフトをしなければならない時期に差しかかっている。世界的に景気が回復してきても、日本経済は2008年、2009年と続く大きな落ち込みを埋め戻すような成長をすることはできないということだ。

希望のほのかな光?

 英エコノミスト誌の最新号(4月25日号)のカバーワードは “A glimmer of hope?”。「希望のほのかな光?」というわけだが、記事のサブタイトルにはこうある。“The worst thing for the world economy would be to assume the worst is over”。「世界経済にとって最悪なのは、最悪の事態が過ぎ去ったと考えることかもしれない」という。

 記事の一部を要約すると、楽観論には2つの誤解が含まれている。1つは明らかな誤り。もう1つはもう捉えにくい誤りだ。明白な誤りは、希望のほのかな光とは力強い回復の始まりのことではなく、落ち込むペースが遅くなったに過ぎないということ。捉えにい誤りは、とりわけ政治家にとって、経済に対する信頼度やいいニュースでは破滅をもたらすような安心感を生むということだ。世界経済が通常の状態に戻りつつあるという過信が、むしろ回復を遅らせ、さらに深みに落ち込まないようにする政策の実行を妨げる。

 さらにこの記事では、日本とドイツに触れている。

 世界経済の見通しは、理論的には、ドイツと日本にとってより明るいというべきなのかもしれない。両国とも、他の先進国に比べて工業生産高はより急激に落ちた(つまり在庫調整がそれだけ進んだ)。そして両国とも家計は膨大な借金に苦しんでいるわけではない。従って在庫調整が終われば、景気は速やかに回復に向かうはずである。

 しかし実際には、その可能性は小さいように見える。とりわけドイツは、失業率がふたケタに迫っているため、消費が急激に回復するとは考えにくい。それにドイツは財政による景気刺激策にそれほど熱心ではない。ヨーロッパの水準で見るとかなり大きな財政支出だが、実際に出せる金額は大きく下回っている。さらに問題なのは、ドイツの銀行はまだ問題を抱えていることだ。

 一方の日本は、4月初めに発表した経済対策で大胆な動きをした。他の先進国に比べると最大の財政出動ということになる。しかし公的債務の累積額はGDP(国内総生産)の200%に迫ろうとしている。つまりこれ以上の財政出動をする余裕はなくなっているのである。輸出市場が減少していることを考えれば、内需でそれを補わなければならないが、過去20年間の経緯を見ると、そうした内需シフトが実現するという証拠はない。

リーダーシップ不在の日本

 そしてエコノミストのトップ記事としては、異例に長くこう締めくくられている(関連リンク)

 世界経済への自信が高まる中で、各国の中央銀行総裁や財務大臣たちはお互いの肩をたたき合って喜ぶ誘惑にかられるかもしれないが、そんなことをしている暇はない。世界恐慌以来の最悪の経済危機はとても終わったとは言えないからだ。まだ彼らがしなければならない仕事はある。

 ここで書かれているよりも「日本の状況は深刻だ」と筆者は考えている。なぜなら、日本は人口が減っている国だからだ。人口が減ると同時に団塊世代が大量に退職していく。退職して退職金が入ったから消費が増えるというわけにはどうもいかず、むしろ消費を抑える方向に動くと考えるのが正解のようだ。

 つまり内需型経済成長へのシフトは容易ではないということである。もちろん政治の強力なリーダーシップによって、あるべき21世紀型の日本の姿を描ければ、状況は変わる可能性もあるだろう。しかし少なくとも最近の政治を見ていて、こうしたリーダーシップが発揮される可能性を感じることができるだろうか。答えは残念ながらノーである。

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