コラム
» 2009年04月21日 08時00分 UPDATE

現役東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”:さようなら、Mr.スポック!――新しい経済学「行動ファイナンス」って何? (1/4)

「行動ファイナンス」の意味を知っている人はどのくらいいるのだろうか。筆者の森田氏も詳しくは知らなかったが、『行動ファイナンスの実践』(ダイヤモンド社)を読み、「これは儲かる!」と思ったという。その行動ファイナンスとは一体……?

[森田徹,Business Media 誠]

著者プロフィール:森田徹

1987年生まれ、東京大学経済学部経営学科在学中、聖光学院中高卒。現在、東大投資クラブAgents自民党学生部などのサークルに所属している。投資・金融・経営・政治・コンピュータ/プログラミングに興味を持つ。日興アセットマネジメント主催「投信王 夏の陣」総合個人優勝、リーマン・ブラザーズ寄付講座懸賞論文最優秀賞。


 以前、マクドナルドの会計問題の記事を書いたことがある。とはいえ、書いてはみたものの、担当編集者に「難しすぎる」と大幅に書き換えられてしまった上、大して読まれもしなかった。ここのところ、経済系の話は書かないようにしていたのには、そういった経緯がある。

 ただ、相変わらず経済や投資ネタが読まれない傾向はあるが、そろそろその手の話を書かないとアイデンティティーの喪失もいいところなので、たまには経済の話でもしておこう。

 というわけで、今回は「金融工学」「ゲーム理論」などと並んで、経済学の新たなフロンティアとなっている「行動ファイナンス(あるいは行動経済学)」の話である。

 筆者も行動ファイナンス理論といえば「人間の認知の仕方や心理的バイアスがどの様に経済的な意思決定や市場価格に影響を与えるかを研究する分野である」といった説明とプロスペクト理論くらいしか知らなかった。「それ、何か面白いの?」といった認識だったが、最近『行動ファイナンスの実践』(ジェームス・モンティア、ダイヤモンド社)を読み始め「これは儲かる!」と、鼻息荒く勉強し始めたところ。なので紹介記事を書くには専門的になりすぎず丁度いい学習レベルだろう。

 基本的には、既存の経済学に大なたをふる「市場の非効率を肯定する経済学の一分野」のお話である。

Mr.スポックとカーク船長

 1960年代から現在まで5つのテレビシリーズが制作されている『スタートレック』という宇宙活劇がある。基本的には、ワープ航法を手に入れた人類と近隣宇宙人の宇宙探査物語だ。独特のデザインの宇宙船は見たことがある人も多いだろう。米系の文献だと分野を問わずしばしば何の断りもなく登場する、米国の超人気テレビシリーズである(もちろん、筆者もご多分に漏れない。どちらかといえばVoyagerシリーズの方が好きだが……)。

 そして、行動ファイナンスが語られるときに必ずといっていいほど引き合いに出されるのが、かの作品のオリジナルシリーズ(1966年〜1969年)に登場するバルカン人と地球人のハーフである“Mr.スポック”である。

 バルカン人とは物語に出てくる近隣星の友好的宇宙人で、感情の起伏には乏しいが論理的思考に非常に長けた存在として描かれ、他のシリーズでもバルカン人はしばしば参謀的な役割を果たす。冷静沈着だが、何か感情的にことを起こそうとすると「人間のやることは非論理的だ。私には理解できない」と言い、オリジナルシリーズでは感情的な冒険家であるカーク船長(こちらは地球人)としばしば対立する。

 物語では、カーク船長の感情的で非論理的だが大胆な決断のおかげで幾多のピンチを逃れ、そのたびにMr.スポックは困惑するのだが、現在の経済学が置かれている状況はこれに近い。

不合理な人間が支配するマーケット

yd_treck.jpg スター・トレック5〜新たなる未知へ〜」(カーク船長〈左〉とMr.スポック〈右〉

 現在の経済学は、Mr.スポックのような論理的かつ天才的なバルカン人、ルネサンス期の万能人のような「合理的経済人」が市場参加者の前提になっている。

 合理的経済人は、自分の効用(あるものを消費したときに得られる満足感を数値化したもの)を正確に知り、その中でスーパーコンピュータでもまず無理な複数の財の最適化問題を解き、最も合理的な購買行動あるいは貯蓄行動を起こすことになっている。

 個々の経済主体が非合理でも、全体として長期的に見れば合理的でまるで経済人が振る舞ったように見えるといった説明がされることも多いが、実証的には怪しすぎる説明(というか言い訳)と言わざるを得ない。

 先ほどの金融工学もゲーム理論も、基本的にはこの合理的経済人の枠組みの中で語られている学問だから、非常に限定されたケースでしか役に立たず、しばしば現実と非常に乖離(かいり)したモデルを提示する(このコラムの初回で紹介した為替における一物一価の法則とPPP(ある国である価格で買える商品が他国ならいくらで買えるかを示す交換レート)などその典型だろう)。

 それを認知心理学の方法論(実験経済学)を借りて、現在の経済学を部分修正し、モデル的な整合性を保とうとするのが行動ファイナンスである。代表的経済人の地位をMr.スポックからカーク船長に取り戻す、壮大で途方もない試みだ。

 しかし、ここで得られた知見というのが、経済学者も我々投資家も、しばしば頭を悩ませる“効率的市場仮説”の機能不全、あるいは理論的な根拠を持たないマーケットにおける経験則(アノマリー)を部分的ながらも非常にうまく説明するのだ。

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