また副業が優れている大きな理由は、定年後の生活へのたっぷりと距離を取った助走になることだ。定年を間近に控えてから、自分が将来やり甲斐をもって働くことができ、かつ経済的にも食べていける職を見つけて育てるのは容易なことでない。小さくても起業の苦労は、会社勤めの苦労とは異質であり、定年直前の体力・気力に余裕のない状態では、満足なことができない可能性がある。新しい仕事を軌道に乗せるために予定外の時間が必要な場合もある。その点、まだまだ余力のあるうちに(例えば50代の前半に)副業あるいは、実際の稼ぎにつながらないまでも将来の仕事の準備をしておくことが有効だ。
少なくとも公的年金に関しては、今後しばらく給付の実質的な使いでが削減される方向にあることが決まっている。また経済環境や出生率の変化によっては、現在予想されているよりも年金をめぐる経済的な状況は悪くなる可能性がある。経済的に必要がある場合には、追加的に働いてお金を稼ぐことができるという状態はより安心だし、稼ぎの方便は早いうちから用意しておかないと貧弱なものになる公算が大きい。
それに、高齢者(例えば筆者の父の趣味の仲間)と話すと、その時点で働いていない人(特に役人や銀行など「しっかりした」組織に勤めていた人)が、やたらに「(自分の)現役時代は」という言い回しを使うのに閉口することがある。昔の自慢話を聞いてあげることは一向に構わないのだが、言外に「今は現役でない自分」像が強調されていて、いたたまれなくなる。
それにひきかえ、年を取っても仕事を持っている人は、何となく活気がある。人はいつでも他人の役に立っているという実感(できれば他人の承認を伴う実感)を持っていたいものだし、現代にあっては対価を伴う仕事に関わっているというのが最も分かりやすい形だ。
「副業生活」に欠点がないわけではないのだが、筆者が思うに、もろもろの長所は欠点を大きく凌駕(りょうが)する。経済的な理由と心身の健康の両面から「副業」をお勧めする次第だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング