コラム
» 2009年04月06日 07時00分 UPDATE

出版&新聞ビジネスの明日を考える:すでに文庫・新書バブルは崩壊? 勝ち残るのはどこ (1/5)

2008年の1年間、8719点の文庫と3625点の新書が出版された。参入する企業が増え、タイトル数は増えているのに、売れる数は減っている……文庫・新書の現状を見ていこう。

[長浜淳之介,Business Media 誠]
yd_naga1.jpg ジュンク堂書店池袋本店の文庫・新書売場

 書店に行けば文庫と新書の山――。特に「ブックオフ」のような新古書店や郊外書店の「TSUTAYA」などに行くと、ものすごい数の文庫や新書が並んでいる。その中には良書も多いのだろうが、一生かけても読みきれないので、いっそのこと「売場から逃げたい」といった衝動に駆られるのは、筆者だけではあるまい。

 データで見てみよう。出版科学研究所によると、2008年1年間で出版された文庫と新書のタイトル数と発行部数は次のとおりだ。

2008年文庫・新書のタイトル数と発行部数(出版科学研究所調べ)

タイトル数(点) 前年比 冊数(冊) 前年比
文庫 8719 4.4%増 1億2669万 0.4%減 
新書 3625 6.0%増 3812万 5.1%減

 2008年は2007年に比べて、タイトル数は増えたが冊数は逆に減っている。特に新書は、タイトル数は6.0%も増えたのに、冊数は5.1%も減少している。新書バブルは崩壊過程にあり、文庫にも波及しそうな不穏な空気を感じる。

2008年文庫・新書の販売金額と新刊平均価格(出版科学研究所調べ)

販売金額 前年比 新刊平均価格(円) 前年比
文庫 782億3900万円 0.8%増 618 1.3%増 
新書 297億300万円 4.7%減 779 0.4%増

 販売面では文庫は売れ行きの鈍化を、微妙な値上げによってカバーしたが、新書はカバーできずに売り上げが大幅に落ちたことを示している。文庫・新書ともに近年、新規参入が相次ぎ、何レーベルあるかも把握しにくいほどだ。1社で複数レーベルを持つ例も増え、市場は飽和状態。返本率も増えており、販売効率が悪化している。

yd_naga3.jpg 岩波新書の本が並ぶ

 なぜこれほど文庫・新書の“洪水”になってしまったのだろうか?

 「1990年代に長期の不況が続いた上に、4〜5年前の景気が良かった時も、企業は社員の給料を上げませんでした。そのためサラリーマンたちの財布が寂しくなり、本を買うのに投資できなかったのが、急激な文庫・新書の点数増加の背景にあります」と語るのは、『出版動乱――ルポルタージュ・本をつくる人々』(東洋経済新報社)の著者・清丸惠三郎氏。

 文庫の老舗といえば戦前からの岩波文庫や新潮文庫のほか、終戦直後創刊の角川文庫などが挙げられる。また1970年代創刊の講談社文庫、中公文庫、文春文庫なども歴史がある。これらの老舗大手出版社は、世界中の古典を中心にA6版サイズで、廉価で提供することを目的として、文庫を発行していた。

 流れが変わったのは、知的生きかた文庫、PHP文庫など実用色の強い文庫が出始めた1980年代。文庫のための書き下ろしも増えてきた。

 「三笠書房の知的生きかた文庫などを見て、この程度のことならウチでもできると、各出版社は思ったのでしょう。それで、今や猫も杓子もという状況です。しかし実際は、ヒット作を出すのはそんなに簡単じゃない」(清丸氏)。

 一方、新書は戦前の岩波新書にルーツがあり、文庫とは別に書き下ろしで、社会・人文・自然科学のタイムリーな話題を読者にていねいに解説していった。

 高度成長期には光文社のカッパブックス、カッパノベルズが、多湖輝『頭の体操』シリーズや松本清張シリーズなどで一世風靡。このほかKKベストセラーズや青春出版社、ごま書房、祥伝社なども、雑誌でよくあるような「色・カネ・出世」を中心とした軟らかめのテーマで、当時の新書ブームの一翼を担った。

yd_naga2.jpg 超ベストセラーとなった『バカの壁』

 現在まで続く新書ブームは、カッパブックスなどの売れ行きが文庫に圧倒されて後退した後、解剖学者で「唯脳論」提唱者の養老孟司『バカの壁』(新潮新書)の成功に触発されたものだ。『バカの壁』は養老孟司の語りをライターが筆記したもので、発行部数は400万部を超え、歴代4位の超ベストセラーとなった。

 この手の教養新書が今の新書の主流で、新規参入のレーベルは岩波新書や新潮新書と同様に、飾り気のない知性を感じさせる装丁を取っているのが、年々派手になる文庫との違いである。

 そうした状況を踏まえて、文庫・新書の現場をのぞいてみよう。

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