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» 2009年04月03日 16時10分 UPDATE

財務で読む気になる数字:M&Aで企業価値は高まるか?――良い多角化と悪い多角化 (1/2)

日本企業が関わるM&Aの総額は、2008年も対前年比で増加した。企業価値はM&Aによってどのように向上するのだろうか。その内実を分析してみた。

[斎藤忠久,GLOBIS.JP]

斎藤忠久の「財務で読む気になる数字」とは?

グロービス・マネジメント・スクールそしてグロービス経営大学院で教鞭を執る、斎藤忠久氏による新連載。ファイナンスの観点から話題になったニュースを独自の視点で読み解くコラム。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年3月27日に掲載されたものです。斎藤氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 2008年に日本企業がかかわったM&A(合併と買収)の総額は12兆4200億円と、2007年の12兆4100億円を上回った。そのうち、海外企業に対して買収・出資した金額は、前年比2.7倍の7兆4600億円と、全体の6割を占めるに至った。大型の買収案件としては、三菱UFJフィナンシャル・グループによる米モルガン・スタンレー社への資本参加(9480億円)、武田薬品工業による米ミレニアム・ファーマシューティカルズ社の買収(8998億円)、第一三共による印ランバクシー・ラボラトリーズ社の買収(4994億円)などが挙げられる。金融危機の影響などから2008年の世界全体でのM&A金額が約295兆円と、2007年に比べ29%も減少している中で、日本企業は円高による追い風もあり、かなり海外企業の買収に積極的であったといえる(2008年12月27日付け日本経済新聞朝刊による)。

 資本効率を追求する欧米企業に比べ、日本企業は伝統的に財務の安定性を重視しているが、この未曽有の経済危機のさなか、財務基盤が厚く手元資金も豊富な日本企業は、世界的な株安そして円高による追い風を受けて、海外での買収を積極化し、再度、世界市場へ躍り出ようとしている。

M&Aの目的はシナジー効果の追求にある

 買収の目的は、規模の経済や範囲の経済性などの要因による付加価値の増加、つまりシナジー効果の追求にある。ファイナンス的に言えば、PV(A)+PV(B)※、つまり買収による合併によって、A社およびB社単体の企業価値合計額を上回る企業価値を実現することにある。

※PV(A)とはA社の現在価値、つまり企業価値である。

 M&Aによる企業価値の増加の源泉には以下のようなものがある。

(1)規模の利益の実現

 合併による規模の拡大にともなう経費・コストの節減。合併によって管理部門のような共通費を削減したり、重複した設備投資を削減したり、また、購入量の増大によって原材料の購入単価が低減したりすることによって、売上高あたりの経費・コスト率が下がることによる。

(2)範囲の利益の実現

 合併にともなう経営資源の共有化による売上高の増加。例えば、営業力に優れた企業が製品開発力に優れた企業を買収した場合、より良い製品が、より能力の高い販売部隊によって販売されることから、合併前の両社の合計売上高よりも合併会社の売上高は増加する。また、運輸業などにおいて、買収による路線網の拡充によって利用者の利便性が増し、売上高が増加するケースもこれに該当する。

(3)不採算事業の廃止

 企業によっては、不採算(NPV=正味現在価値※がマイナス)の事業であっても過去のしがらみもあってなかなか廃止できない場合があるが、買収を契機に不採算事業が廃止しやすくなる。マイナスのNPV部門が廃止されれば、企業全体としての価値は増加する(毀損していた価値が元通りになる)。

※NPVとは、企業・事業の価値であり、事業・企業が生み出すキャッシュフローをそのキャッシュフローのリスクの大きさに見合った割引率で現在価値に割り戻したもの(PV=現在価値)から初期投資額を控除したものであり、その企業の正味の価値である。

(4)ノン・コア事業の売却

 企業内ではコア事業でなく十分なヒト・モノ・カネの投資を受けられていない事業はその潜在能力を生かしきっていないが、その事業をコア事業としている他社に買収されれば、十分な投資が行われ、結果として潜在能力に見合った事業価値が回復される。

(5)経営者の交代

 企業経営者の手腕が企業価値に与える影響は極めて大きい。日産自動車や日本電産の例を見れば肯けよう。買収は資本の移動であるが、往々にして経営者も交代する。

 それでは、上記に挙げたようなシナジー効果がない買収については、どう考えたらよいだろうか?

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