クリエイター向け賃貸共同住宅のヒミツ大出裕之の「まちと住まいにまつわるコラム」(3/3 ページ)

» 2009年04月01日 14時20分 公開
[大出裕之,Business Media 誠]
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シナリオ、物語を提供したかった

ブルースタジオの大島芳彦専務取締役

 このシンプルな物件に世界観を構成する要素として新たに付け加えられたのは、無垢材のフローリングと雰囲気を合わせた各種照明だ。プロデュースしたブルースタジオの大島芳彦氏は、同社のこだわりについてこう語る。

大島 今、普通の人がみんなクリエイターであり、インテリアコーディネーターになっています。無印良品でも良いし、IKEAでもいいし、少し高級であればCassinaやArflexでもいい。家具は多様な選択肢から簡単に選べる時代なんです。特に今回はクリエイター向け賃貸を想定していますので、いろいろ設備を作ってあげるよりも、白いキャンバスを提供して、そこに住むシナリオ・物語を描いていってほしいと考えています。その物語の主役は住人。人が使って初めて物語は完成するのです。

 かつての“デザイナーズマンション”ではなく創造的な“デザイナーのためのマンション”ですね。その意味で床材というのは大切。床はまさに生活を描き出すキャンバス。だから絵を描く時に帆布のかわりにナイロンのにせものを使うわけには行かないのと同じで、弊社の賃貸はほかのコストを落としても床だけはすべて無垢材を使用しています。

節のある針葉樹だとリーズナブルに無垢材を使用できる(左)、各部屋の入り口と同じ照明を取り付けられたエレベーター(右)

大島 今の賃貸住宅の問題は、設備をどんどんゴージャスにしてしまっているところです。今の若い人は物があふれた環境で育ってきているから、そんなものに魅力を感じません。物質的な価値観ではなく、「楽しい」「友達に自慢できる」というような物語を大切にしています。モノではなくストーリーに共感する人が集まってくるようになるといいと考えています。

 今の新築賃貸住宅はストーリー性がありません。中に中にこもってしまう構造、閉鎖的な戸建住宅の集合体でしかありません。個の集合体であってコミュニティではない。Colonia/Galleriaは、阿佐ヶ谷にあること、1960年代の建物であること、元気な商店街に面しているということを考慮し、価値観を共有できる人たちが共同で住める住宅というシナリオを考え、そのようにリノベーションしました。

ビルのエントランスにも特別な照明を取り付けた(左)、室内照明はすべてこれで統一。もちろん自分の好きな照明器具を買ってきて自由な位置に設置することもできる(右)

価値観を共有する人同士が住むメリット

 価値観を共有する人たちによるコミュニティは、知らない人同士が住む住宅よりトラブルはきっと少ない。単なるSOHO向け賃貸ではなく、あくまでも共同住宅であるというところで、中央線カルチャーとフィットするコンセプト、シナリオが成立するのだろう。

 中古物件をリノベーションして再生するという手法は、住宅選択においてトレンドになりつつある。今回の事例は特にエッジが効いた物件ではないだろうか。ちなみにHOME'Sでは、リノベーション済み販売物件のコーナーを開設している。ほかの不動産サイトにはない試みなので、興味があれば是非ご覧いただきたい。

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