アサヒビールは“パンドラの箱”を開けたのか? うまさの裏側にある不安それゆけ!カナモリさん(3/6 ページ)

» 2009年03月30日 07時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

3月18日 隠れたヒット商品「こけしマッチ」に学べ

 どこにでもある、ありふれた「コモデティー品」や、もはや使用する人も少なくなった、プロダクトライフサイクルの「衰退期」にある商品。そんな商品が思わぬヒット商品に化けることもある。2つの商品を例に、そのヒットのヒミツを探ってみよう。

 「マスキングテープ」をご存じだろうか。

 マスキングテープとは、元々は塗装などを行う作業現場で、塗料が不要な部分に付着しないようにカバーする道具である。必要な分だけを引き出して、簡単に手でちぎれる。貼って、簡単にはがせる。はがした後も糊の跡が残らないというのが特徴だ。

 そんなプロ用の、使い捨て資材が色とりどりの雑貨として生まれ変わった。

 カモ井加工紙の「mt(masking tape) 」だ。

 もともとマスキングテープは、はがしやすさから、資材識別のための一時的な目印として用られることもあったので、さまざまな色展開があった。そして、素材として和紙が使われているため、その風合いがいいとして雑貨小物として利用するファン層があったという。その熱心なファンから、さらに色展開や模様などをプリントした商品を開発するように促され、商品化に至ったのだ。

 マスキングテープの本来の「中核的価値」とは何だろうか。それには、カモ井加工紙の出自が大きく関係する。

 同社の歴史は、大正12年(1923年)にハエを捕る「ハエ捕り紙」の製造・販売からスタートした。「ハエ捕り紙」を知らない世代も多くなっているはずだが、部屋の天井からリボン状の紙をつるしておき、ハエがたかると、紙にコートされている粘着材で動きが取れなくなるというモノだ。つまり、カモ井加工紙のコアの技術は「粘着」なのだ。

 マスキングテープは簡単に貼り付き、簡単にはがせる。糊の跡が残らないという、粘着の具合が「中核的価値」である。その貼る際の簡便さを確保するために、テープの形状となった。つまり、中核的価値を実現するための「実体」がテープという形状であるわけだ。

 「マスキング」という本来的な使い方を離れて、はがしやすいという特徴が重宝され、「識別用の目印」として用いられるようになったため、「付随機能」として、色展開が始まった。

 こうして考えると、マスキングテープの価値構造は、「貼りはがしのしやすさ>使いやすいテープ形状>識別用色展開」となっていることが分かる。

 では、「雑貨小物」として大ヒット中の「mt(masking tape)」はどのような価値構造を持っているのだろうか。中核的価値として、「資材」であるマスキングテープのすべての価値が求められている。すなわち、「貼るはがす+テープ形状+色展開」である。それらのどれ1つ欠けても魅力を失う。

 そして、新たな実体も求められ、それに応じて開発が続いている。「色・柄」である。識別用としてなら色展開はそんなに多くは必要ない。しかし、趣味の雑貨小物として、さまざまな使用用途に供するために、もっと豊富なカラーリングが欲しい。色だけではなく柄物もという、価値が求められたのだ。

 さらに、「mt(masking tape)」という商品の中核に直接影響を及ぼさないが、その魅力を高める付随機能も、大変効果的に用いられている。商品パッケージである。雑貨小物らしく、シンプルながらもセンスの良いパッケージを使用している。贈り物にもできそうだ。

 プロ用の使い捨て資材を、「おしゃれでかわいい小物」に昇華させた「mt(masking tape)」。ヒットのヒミツは価値構造の組み替えなのだ。

 もう1つのヒット商品を紹介しよう。こちらは、「知る人ぞ知る」という隠れたヒット商品であるが、静かに全国に浸透しているようだ。

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