アサヒビールは“パンドラの箱”を開けたのか? うまさの裏側にある不安それゆけ!カナモリさん(1/6 ページ)

» 2009年03月30日 07時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年3月27日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


3月16日 第3次野菜ジュース戦争勃発!

 今春。カゴメと伊藤園は、新たな戦いを、市場の中で、もしくは野菜ジュース市場を超えて、飲料市場で繰り広げようとしている。第3次野菜ジュース戦争の勃発だ。

 熾烈(しれつ)な飲料合戦において、比較的マイナーな存在である「野菜ジュース」カテゴリー。昨今の飲料業界のトレンドを一言で表わすなら、「緑茶飲料から炭酸飲料へのメインストリームの移行」である。緑茶飲料が熾烈なシェア争いを繰り広げる中に、ゼロカロリーの炭酸飲料が登場し、「カロリーは気にするがおいしいものを飲みたい」という消費者の嗜好(しこう)にマッチして、炭酸飲料市場が急伸中である。

 イマイチぱっとしない野菜ジュースカテゴリーではあるが、しかし、各社がしのぎを削る戦いが、実は約1年前の2008年3月ころから、始まっていた。

 それまでの中心的ブランドであった、カゴメの「野菜生活100」「野菜一日これ一本」、伊藤園「充実野菜」「1日分の野菜」という2大メーカー4強ブランドに、サントリーが「野菜カロリー計画」を発売した。

 サントリーの競争軸は「カロリー」。「野菜一日これ一本」「1日分の野菜」のような、野菜汁オンリーではなく、果汁混合タイプでスッキリした味わいながら、糖質を20%オフ。さらに、今まで「絞りかす」として捨てていた繊維質をピューレ化することで栄養素を100%摂取できるという健康志向強化も図っている。

 スッキリしていて低カロリー。健康志向もより強化する。そんな野菜飲料のKSF(Key Success Factor=成功のカギ)が見え始め、他社も同様のポジションの商品を販売した。

 今回、そこに新たな動きが加わる。2009年3月10日から全国で発売されたのが、カゴメ「やさいしぼり」。同社のニュースリリースを見てみよう。

 なんともストレートなネーミングであるが、そのこだわりは原材料のチョイスと、ネーミングにある「しぼり方」である。3タイプの味があるが、いずれも2〜3種類の野菜しか使われていない。従来の「何十種類の素材をブレンド!」というものとは明らかに異なる。

 その厳選した素材を、超高温での短時間殺菌のため、風味を損なわず野菜の甘みを生かすという製法によって、一切加糖しない野菜だけのスッキリした甘みを引き出しているという。

 ターゲットは野菜ジュースに『野菜本来のおいしさ』を求める、30代以上の男女であり、野菜ソムリエの活躍や、野菜レストランの出現、野菜スイーツの登場に見られるように、野菜本来のおいしさが注目され、野菜を味わうことを積極的に楽しむ層の増加に対応したとのことである。

 つまり、「野菜ジュースを飲む/飲まない」というセグメンテーションやターゲティングではなく、「本格的に野菜を好むオトナ」というターゲットに絞り込んで、「本格的な野菜加工食品」としてのポジショニングで打って出ようという戦略なのだろう。

 さらに、想像を超えたユニークな戦い方を挑もうとしているのが伊藤園だ。

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