日本とどこが違う?――ドイツ新聞業界の今松田雅央の時事日想・出版&新聞ビジネスの明日を考える(2/2 ページ)

» 2009年03月24日 11時59分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]
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ドイツ・ジャーナリスト協会インタビュー

 以上のデータは2006年から2008年前半までのもの。それでは世界経済危機を迎えた2008年後半から現在にかけての状況、そして今後の見通しはどうなのだろうか。ドイツジャーナリスト協会の広報、ヘンドリック・ツェルナー氏に話を伺った。

ドイツ・ジャーナリスト協会の広報、ヘンドリック・ツェルナー氏

――新聞界の現況は?

ツェルナー 2008年秋以降、新聞広告費は10%、発行部数は5%も落ち込みました。特に専門紙(経済紙など)は大きく落ち込んでいますが、それに対してズートゥドイッチェ新聞などの全国紙はほとんど問題がありません。質の高い広告媒体として認知されているということでしょう。

――ここ2〜3年で廃刊・休刊となった著名な新聞はありますか?

ツェルナー 特には思い当たりません。個々の理由で発行を止めた中小の新聞や雑誌はあるでしょうが、新聞離れや昨年からの経済危機を原因とする大手新聞の廃刊は聞いていません。

――社会の「活字離れ」が新聞読者減少の背景にあるとも言われます。

ツェルナー 新聞離れの背景にはインターネット普及の影響があり、これはどの国でも起きていると思います。特に若年層でその傾向が強く出ています。

――新聞離れという長期傾向のなか、新聞にはどのような生き残り策がありますか?

ツェルナー 私も、ぜひその答えを知りたいものです(笑)。ほとんどの新聞がオンラインポータルを運営し、新たなコンテンツの開発、出版に力を入れる新聞もありますが大きな成功例はまだないですね。インターネットは若い世代を取り込むために必要不可欠であるものの、収益はまだマイナスです。

――ほかの欧州諸国と比べ、ドイツの新聞界にはどのような特徴がありますか。地方紙や地域紙の充実が(比較的落ち込みが少ない)強さの秘密と思うのですが。

ツェルナー ドイツの新聞は数が多く、バラエティーに富んでいます。日刊紙は200紙ほどあり、フランスや英国よりずっと多いはずです。ただ、地方紙や地域紙はこのところの経済危機の影響を強く受けています。広告主に小さな会社、小売店、手工業者が多く、景気に敏感だからです。

――新聞だけでなくマスメディア全体の状況はどうでしょう。

ツェルナー 難しい状況にあります。特にラジオは厳しいですね。テレビは各社で状況が異なり一概には言えません。例えばRTLは収益を上げていますが、Pro7、Sat1(いずれも大手のチャンネル)は逆に収益を落としており、インターネットの充実など経営方針の差が出ています。

全国紙の読者はコア

 全国紙の例として名前が挙がったズートゥドイッチェ新聞は、「ズートゥドイッチェ」=「南ドイツ」の名前の通り元々は南ドイツの地方新聞だったが、現在は全国どこでも販売されている。ただ、日本の全国紙に比べると発行部数は桁違いに少なく43万部/日ほどしかない。不特定多数のためではなく主要読者層に対象を絞って紙面を作り、景気に左右されにくいコアな読者を獲得していることが安定につながっている。

ズートゥドイッチェ新聞のロゴ

 もう1つ、インタビューにも出てきた「地方紙と地域紙の充実」がドイツの大きな特徴として挙げられる。これは結局、地方分権と自治意識の強さの反映と言えそうだ。首都ベルリンは政治の中心でありメルケル首相の動向は気になるが、それ以外のベルリンのニュースは全国市民には必要ない。経済の中心はフランクフルトなので証券取引所や主要銀行のニュースは流れてくるが、フランクフルトのニュースもそれだけで十分。主だった企業の本社も特定の都市に集中しておらず、聞いたこともないような地方都市にあることが珍しくない。

 このように、ドイツにはすべてが集まった一極集中都市が存在せず、大多数の市民の主な関心はおのずと自分が住む州と自治体に向く。地方紙や地域紙は経済危機の影響を強く受けているものの、長い目で見ればやはりこれがドイツ新聞界の支柱であり続ける。インターネットの比重が増しても基本的にその構図は変化しないはずだ。

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