『らき☆すた』『true tears』に学ぶ、アニメツーリズムの可能性(6/6 ページ)

» 2009年03月23日 14時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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今の若い人には地方やふるさとに憧れるニーズがある

 すべての事例が紹介されると、司会を務めた東京大学大学院情報学環の七丈直弘准教授を中心に意見交換が行われた。

左から菊池氏、高山氏、坂田氏、山村氏、七丈氏

七丈 身近な景勝を表現に使えることは作品の質を高めるのに寄与しているのでしょうか?

菊池 それは間違いないと思います。「空気感的なものをどうやって伝えるか」というのは作品によっては非常に重要なので大事にしたい部分です。地域と深く関わる中で作り込みができやすくなってくると思います。

 (ある地域を作品の)舞台に使わせていただいた後、「実は使っていました」と言うことはできれば私たちは避けたい。作品の内容やテーマ性などをどこまでお知らせするかというのはあるのですが、できる限りあらかじめご協力を取り付けた上で展開をすることが業界的にもこれから求められる部分ではないかと思っています。

七丈 地方自治体や地元からの支援はあるのでしょうか?

菊池 (ピーエーワークスは)本社ビルが南砺市さんの起業家支援センター、「これから商売を始めよう」という起業家向けに開放された支援センターに、2002年の開設当初から入らせていただいています。賃料が平方メートルあたり500円と非常に安く借りさせていただいているので、富山から離れられません。東京で同じことをやると10倍くらいの賃料になるのではないかと思います。

 (逆に南砺市への貢献という点では)行政のホームページのアクセス数が1日数百件だったのが、数万件になり、「これは何だ」と(いう出来事はありました)。「合併して間もなくて、名前も知られていないのに、検索すると富山県南砺市がやたら出てくる、これはありがたいな」という喜びの言葉はいただきました。

七丈 ファンワークスの高山さんは地方で生活するクリエイターの方を、ビリッチさん以外にも何名も抱えてらっしゃると思うのですが、デメリットは感じられますか?

高山 ファンワークスはほとんど地方のクリエイターと仕事をしているのですが、地方でクリエイトするデメリットはないと思っています。今、クリエイションに重要なことが「環境」「食べ物」「仲間」の3つだと思っています。変なものを食べると体悪くしますし、「沖縄では花粉症がないんですよ」といった話を聞くと地方の方が圧倒的にいいのではないかと思います。

菊池 私たちの業界では3種の神器的なもの、「紙」と「鉛筆」と「コンピュータ」があれば(作品)はできます。声優さんの収録の件はあるのですが、(実写のように)俳優さんに来ていただいて収録する作業は必要ありません。(アニメ制作は)地方でやりやすいのではないかとはかねがね思っています。

七丈 地域にとっても新しい事業展開でスキルを培えるという面もあると思うのですが、地域にとってのメリットということで何かありますか?

坂田 おっしゃる通り、人も育ちました。馬鹿に磨きがかかったみたいな形でですが、(鷲宮町商工会では)私と松本という者がいろいろ勉強させていただきました。版権という言葉すら知らない人間でしたが、それでも版元のほうから電話がかかってくるとビクッとしながら、優しく怖く粘り強く指導していただきまして、何とか知識を得ることができました。

 また、地域を上手く束ねて、今まで行ってきてないことをしようとすると、若手の力ももちろん重要だと思うのですが、屋台がちゃんとできるかとか、電気をどこから引っ張ってくるとか、交通整理をするとかスキーム作りが大変だと思います。(鷲宮の場合は)指導者というかメンターのような方がいらしたので(助かりました)。

 地域で新事業をする時には「硬直的な行政が障害となってうまくいかない」という話はよく聞くのですが、企画の内容は(行政の影響はなく)ほぼ商工会の中で決めています。鷲宮のボランティア部にファンの方が何名かいらっしゃるのですが、そこで細かい意見やアドバイスはいただいています。

七丈 山村先生は(コンテンツによる町おこしの)地域にとってのメリットをどう考えてらっしゃいますか?

山村 (地域にとってのメリットは)2つあると思います。1つは皆さんおっしゃられていることなのですが、「自分たちの地域が持つ良いもの、素晴らしいものを外に向けて発信できる」ということです。

 もう1つは内向きなのですが、お客さんが来てくれることで、地域の人たちが「これってこういう風に評価されるんだ」と価値に気付けること、これは大きな財産ではないかと思います。先ほど高山さんの方からもお話がありましたが、私自身も札幌に住んでいるのですが、Webに代表されるインフラが整備されたことで、仕事の作業的には東京と遜色なく情報の蓄積とやりとりができるようになりました。そうした時に、地方には文化的な蓄積、歴史的なもの、東京や都市圏が失ってしまったものが残っているんですね。『true tears』では12話にお祭りのシーンが出てくるのですが、本当に素晴らしいんですね。

 高度経済成長時代には東京が憧れだったと思うのですが、今の若い人たちは「ふるさと不在」と言いますか、逆に地方やふるさとに憧れるニーズがあるのではないかと思います。それが『らき☆すた』や『true tears』のように、最近の聖地巡礼を生んでいるのではないかと思います。鷲宮町ではよく坂田さんが「義理」と「人情」と商工会の会員の商店さんのことを言うのですが、そこにファンの人たちが通っているうちに、いつの間にか義理の親子のようになっているんですね。「もう1つのふるさと」みたいな感覚を生むことができた、「それは非常に良かったのかな」と感じました。

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