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» 2009年03月23日 03時39分 UPDATE

川上慎市郎の“目利き”マーケティング:日本は“ソフトイシュー”先進国? (1/2)

あなたの会社の新商品や新事業の立ち上げプロセスを思い出してみてください。ある個人が秘密裏に頑張って、ある日突然ローンチする……そんなことはありませんか? しかし個人芸だけでは、企業は成長できません。人材と組織を成長するには、どうしたらいいのでしょうか。

[川上慎市郎,GLOBIS.JP]

「川上慎市郎の“目利き”マーケティング」とは?

グロービス・マネジメント・スクールでマーケティングを教える川上慎市郎氏が、企画の成功率を高める「目利き」の方策を探るシリーズ。毎日手に取る商品から、新しいサービス、気づかず消費者が誘導される購買行動まで、川上氏ならではの新しい視点でコメントします。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年2月20日に掲載されたものです。川上氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 市場の成熟化と商品寿命の短命化によってますますハードルの上がる新商品の開発・投入を、どのようにマネジメントすれば良いのか。この問いに答えるため、前回(参照記事)は新商品開発という営みが企業において持つ内部的な意味合いについてご説明しました。

 新商品の成功確率を上げる、言い換えれば失敗の確率を下げるということは、もちろんとても重要なことです。しかし、マネジメントが失敗の確率を下げようとするあまり、現場の試行錯誤とその結果の確認というサイクル自体を断ち切ってしまっては、新商品を作り上げていくプロセスにおける人材と組織の成長という、マネジメントが目指すべきもう一つの大きな果実を手にできなくなる恐れが生じます。

真の目的は「ビジネスを動かすケイパビリティ」の構築

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 「目的と手段を取り違える」という言葉がありますが、成熟市場における新商品開発のマネジメントは、まさにこの「目的」と「手段」の関係が従来の概念と入れ替わる現象が問題となります。企業はもちろん最終的には売上と利益の成長を達成しなければならないのですが、新商品開発はそれにダイレクトにつながる「手段」であるというよりは、企業が売上と利益の成長を手にするうえで必要不可欠な人材と組織の成長を実現するための「手段」でもあるのです。

 成熟した市場においては、消費者の目は肥え、見せかけの品質だけの商品、安かろう悪かろうの商品を提供しても売れなくなり、利益を出せる会社と出せない会社の差が激しくなります。そのような市場を相手にしたマネジメントの優先課題は、短期的な売上の伸長よりは中長期的な企業自体の魅力と収益力を高めることに置かれます。

 そこでカギになるのは、やはり企業を構成する人材と組織のケイパビリティ(組織的戦略遂行能力)です。つまり、新商品の開発という「手段」を通じて、自社の強みを把握して顧客のニーズを満たすための商品/サービスを構想し、経営上のリスクを抑えながらそのビジネスを立ち上げ、動かしていくケイパビリティを企業内に構築することが、ここでの真の「目的」なのです。

経験と実績に基づく「個人芸」への依存が悪弊を生む

 では、新しいビジネスを立ち上げて動かすとは、具体的にどのようなケイパビリティによって可能になるものなのでしょうか。

 従来、こうした能力は社内のごくごく一握りの(場合によっては声の大きい)社員に「あるとされ」ており、すぐれて属人的な能力でそうしたプロジェクトを進めていたのではないかと思います。その人物が本当に新商品や新事業の開発に向いているのかどうか、果たしてそのようなやり方が良いのかどうかといったことが誰にも分からないまま、多くは経営トップの好き嫌いでメンバーが決定され、プロジェクトがスタートする。その他大勢の一般社員にはまったく知られることなくプロジェクトが進められ、ローンチの段階になって突如商品だけが現れる――どの企業でも、新商品開発プロジェクトというのはこれと(当たらずとも遠からずの)似たようなプロセスを踏んでいるのではないでしょうか。

 その中で必要な能力と言えば、プロジェクトで要求された無理難題のスペックを、過去の経験や蓄積を踏まえて可能にしてしまう職人的な離れ技だったり、個人的な人脈から大口の販売先を探り当て、不可能と思われた売り上げ目標をなぜか期末には達成できてしまう凄腕営業の能力だったり、というイメージを持つ方も少なくないのではないかと思います。

 事前情報が社内外に不用意に漏れては大変といった配慮から、しばしば新商品開発にはこのようなクローズで特定個人に強く依存したプロセスやリソースの管理が行われます。しかし、その副作用として開発プロセス自体が社内でもブラックボックスとなり、またそれを率いるリーダーもメンバーも、自分が今やっているプロジェクトの進め方が果たして正しいのかどうかが確認できないまま、さまざまなプロジェクトが生まれては消えていくという事態も生じます。当然ながらこうしたクローズなプロセスに関与できるのは社長など経営トップのみとなるため、前回も述べたように心配の余り計画にいちいち口を出す経営者が出てくるのです。

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