京都伝統のコンテンツを生かせ――着物柄の名刺をプロデュース郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)

» 2009年03月12日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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アナログの手触りを伝える

 「最初は豆腐や漬け物まで手掛けるアイデアがあったんです」

 のぞみはこれまで京都全域で味の店や土産店を取材してきた。その過程で“食”という京都コンテンツを自らも企画・販売したいと考えていた。だが結局“名刺”というツールに絞ったのは、藤田さんたちが京都の情報と格闘してきた歴史からだった。

 物語は2002年、京都大学や同志社大学の学生たちが、マンションの一室で学生ライターたちが集まる事務所「のぞみ」を立ち上げたことから始まる。時は就職氷河期、「いっそ自分たちで起業しよう」、そんなノリで始めた編集プロダクション起業だった。安価でマジメな編集を心がけたため、京阪神エルマガジンや大手雑誌の京都特集を次々に請け負った。また、大手通販会社と一緒に、京都グッズのプロモーションも行った。

 当時のことを「編集者の真似事」と藤田さんは振り返るが、仕事をする上で2人のライターに薫陶を受けた。「スペックを書くな!」と言ったのは京阪神エルマガジンの江弘毅『Meets Regional』編集長。例えば、ラーメン屋をどう伝えるか。めんの太さ、スープの濃さ、修行した店、仕入れ先、行列の長さ……。しかし、江さんは言った、「そんなのはみんなデジタル情報。もっとアナログの手触り感じゃないとダメだ。どんな気持ちを込めて作っているのか、場の雰囲気はどうか、食べる客の額にどんな汗が流れているか、お客さまは心からの笑顔なのか。それを伝えなさい」と。

 「伝えると伝わるは違う」、これは博報堂のあるコピーライターの言葉。「伝わらなければ結局自己満足。“伝わる”ためには、言葉を微調整しつつ“HOW”を書きなさい、“WHAT”を書いちゃダメです」と言われた。どちらも「人の心を伝えなさい」というメッセージ。それが真の情報発信だと感じた。

ウチ側の視点で京都を観てきた

 それからは「京都のアナログの手触りを伝えよう」と格闘してきた。それはWebというデジタル情報媒体との格闘でもあった。そしてJTB MOOKの『京都クチコミランキング』(2006年)が1つの解になったいう。

『京都クチコミランキング』(2006年)

 『京都クチコミランキング』ではネット掲示板のナマのクチコミ情報を取り入れた。取材だけでなく、消費者のホンネを付加して店を紹介することで、「この店がすごい」という自画自賛のガイド本から脱出した。「ナマの京都が描けた」実感があった。さらに気付きもあった。「これまで、内側の視点ばかりで京都を見てきたのではないだろうか?」

 もっと大きな視点から京都のコンテンツを見よう。すると、京都をスルーするお金の流れも見えてきた。京都の伝統の技やコンテンツをどう生かすべきかが見えてきた。こうして伝統的な工芸と大量生産のジレンマの解決策である『和札/WAFUDA』が生み出されることとなった。京都の中の人と人、店と店、技と技を結びつけて、「伝統×コンテンツ・プロデュース」で京都の和を広める、それが藤田さんの“のぞみ”だ。

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