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» 2009年03月09日 12時47分 UPDATE

川上慎市郎の“目利き”マーケティング:ヒット商品開発の手柄は誰のもの? (1/2)

企業が発展し続けるために欠かせないのが「新商品開発」。しかし経営者から見ると、新商品開発とはコストがかかる割にリスクが大きい事業です。現場の思いと経営者の意識はどこでズレるのか? 企画を通して組織が継続的に成長を続けるには? 今回はそのポイントについて考えます。

[川上慎市郎,GLOBIS.JP]

「川上慎市郎の“目利き”マーケティング」とは?

グロービス・マネジメント・スクールでマーケティングを教える川上慎市郎氏が、企画の成功率を高める「目利き」の方策を探るシリーズ。毎日手に取る商品から、新しいサービス、気づかず消費者が誘導される購買行動まで、川上氏ならではの新しい視点でコメントします。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年2月20日に掲載されたものです。川上氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 前回のコラムでは、さまざまな業界で、市場の成熟化にともない、商品の寿命が短命化、成功率が低下するという“コンテンツ産業症候群”に巻き込まれていること、また、新商品や新企画に対する経営陣のリスク感度が上がったことによって、現場から商品企画を出しにくくなっているという話を述べました。

 今回は、そうしたジレンマの背後にある深刻な問題について、少し考えてみたいと思います。それは、企業における「商品開発」という営みに対する、経営陣と現場のあいだにある認識ギャップです。

経営者の企画介入はヒット商品を生まない?

 前回も述べたように、経営者から見たときの「新商品開発」というのは、失敗するリスクが非常に高く、ファイナンス的な投資価値は限りなくゼロに近いわけです。そうすると、経営者としてはそのリスク察知能力を生かすためにも、また投資家への説明の必要性からも、商品開発のプロセスに関与して、その成功率を少しでも上げようと試みるものです。

 商品開発のリスクを少しでも下げようというこうした努力そのものは、あながち問題とも言えません。実際、私が取材したことのある範囲でも、経営陣が新商品に関してまったく注意を払わなかったために、現場が暴走して企業全体のブランドイメージからずれた商品を作って発売したり、とてもその事業規模に見合わないような投資計画を作って大損を出したりといった失敗は、枚挙に暇がありませんでした。

 しかし、経営者が良かれと思って口出しした場合でも、実際にその介入に直面した商品企画担当者たちの現場レベルの声を聞くと、むしろ「ヒット商品を生み出す」とは逆の効果があると受け取られていることが多いようです。

 著名なヒット商品を開発した企画担当者に商品化までの経緯をうかがうと、たいてい『社長には「こんなもん、売れるわけがない」と猛烈に反対されたが、押し通した』「経営トップから製品の細かい仕様に口を出されたが、すべて断った」といった武勇伝(?)のようなものがこぼれ出てきます。

 中には、『経営者の意見を聞いて修正を加えた商品は必ずといって良いほど売れない。売れる商品は、担当者が自信をもって「こうでなければだめだ」と言いながら作ったものだけだ』と言い切るマーケッターの方もいます。これらの話を聞くと、どうも経営者の企画介入は「ヒット商品を生まない」方向に作用することが多いのではないかとさえ思えてきます。

 しかし、考えようによってはこうした介入も「経営者の反対という壁を乗り越えられるほど強い意志で作られた企画でない限り発売させない」というかたちで、消極的な意味ではありますが企画失敗のリスクを低減させているのかもしれません。その点は評価できなくもありません。

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