週刊誌の記事が“羊頭狗肉”になる理由出版&新聞ビジネスの明日を考える(2/3 ページ)

» 2009年03月06日 07時00分 公開
[吉富有治,Business Media 誠]

 もっとも噂話と事実が入り交じった、玉石混淆(ぎょくせきこんこう)こそ週刊誌の持ち味なのかもしれない。読者も「ホンマかいなぁ」と眉につばをつけ、なかば興味本位に読むのが週刊誌の醍醐味なのだろう。でも、記事を書かれた人にとってはたまらないし、書いた記者だって後になってホトホト困る場合だってあるのだ。

故横山ノック氏の記事をめぐって

 実は私も過去、その洗礼を受けたことがある。私が週刊誌のいい加減さを最初に思い知ったのは、大阪府知事だった故横山ノック氏(享年75歳)のインタビューを記事にまとめたときだった。

 横山ノック氏は1999年、2期目の知事選に出馬することを表明。235万票もの歴史的な得票で当選した後、例の痴漢事件であえなく失脚する結末となった。

 前年の1998年から写真週刊誌の記者として働き始めた私は、当時の編集者から命じられるまま、選挙前のノック氏に会うために、いそいそと大阪府庁へ出かけて行った。編集者の依頼は、知事のコメントを取ること。内容は「2期目の公約」といった漠然としたもので、特に深い中味のあるものを欲しがっていたわけではなかった。

 というのは迂闊(うかつ)にも後で知ったのだが、写真週刊誌『F』とノック氏は“犬猿の仲”だったのだ。ノック氏が国会議員だったころ、『F』は何かのスキャンダルを暴いたらしく、それ以来、ノック氏は『F』を目の敵にしていたようなのだ。『F』にしてみれば、知事になったノック氏の肉声コメントが取れたら万々歳。無理でも仕方ないという程度だったのだ。そうとも知らず、脳天気に出かけた私がバカを見た。

本当に新聞は一流なのか?

 大阪府庁の知事室前で番記者に囲まれていたノック氏を遠巻きに見ていた私は、記者たちの質問攻勢が終わった瞬間、意を決して知事の前に進み出た。「あのう、『F』の吉富という者ですが」と、まずは名刺を差し出して自己紹介。が、ノック知事は怪訝(けげん)な顔をし、「ボク、Fって大嫌いやねん」と言われてしまった。だが、知事の言い方に嫌味がなかったためか、周囲の番記者たちは大爆笑。つられて知事は「Fとこんなことがあってな」と、長々と昔話まで披露する始末。

 そしてノック氏はグチを言い終わってスッキリとしたのか、私の質問にも快く答えていただいた。振り返ってみれば社交辞令だったかもしれないが、最後には「吉富くんやったかな。また遊びにおいでや」と、笑顔で見送ってくれたのである。ノック氏からコメントを引き出せた私は、大阪府庁の食堂でPCを取り出し、急いで記事を書き送ったことを覚えている。もちろんノック氏のコメントは一字一句、できるだけ正確に書いたことは言うまでもない。

 ところが、どうだ。発売された『F』を読んでビックリ仰天。いや、顔が真っ青になった。『F』に掲載された記事は、私の原稿とは似ても似つかぬものとなっていた。私が編集部へ送った原稿には、「ボク、『F』って大嫌いやねん」という知事の第一声は使ったものの、それでも選挙公約と大阪府の未来について堂々と語る知事の姿を描いていた。なのに実際に掲載された記事は、「このアホ知事が、なにを偉そうに」という、完全にバカにしたトーンなのである。知事のコメントも揶揄(やゆ)され、そのトーンに合うように原稿も都合よく編集されていたのだ。こっちはブルーなトーンへと早変わり、眼もテンである。

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