経営コンサルタントの仕事とは――藤沢烈さん(前編)あなたの隣のプロフェッショナル(2/4 ページ)

» 2009年02月28日 11時50分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

経営コンサルティングの「現場」とは

 そうした先鋭なベンチャー企業の中で、藤沢さんは特に、どういう業務に注力しているのだろうか。

 「そうですね……分かりやすく言えば、ビジョンを持ってその実現に邁進しようとする経営者の“女房役”として、あるいは、そうした経営者と現場の社員たちとの間の“パイプ役”として私は機能しています。経営者のビジョンを翻訳して、現場に落とし込むお手伝いをしたり、現場の声を吸い上げ、それを踏まえて経営者にアドバイスしたりすることが多いですね。経営者と現場の社員の間には、どうしても温度差は存在するものですし、また人が3人以上集まれば派閥ができたりします。そうした諸々の“壁”を取っ払い、社内のベクトル合わせを促進し、ベンチャー企業としてのテイクオフを効率的・効果的に実現していこうと努めています」

 経営学の世界でも、イノベーションを実現するためには、その前提として、社内の「パラダイム転換」が必要とされている。イノベーティブなアイディアや技術を有する最先端のベンチャー企業でも、やはりそうした「組織能力開発」の問題は避けて通れないのだろう。

 また、ご自身の役割についてこうも言う。「ベンチャー企業をテイクオフさせる上で、重要だなと感じているものに、『タイミング』があります。ビジネスの成功確率は、月単位で変動してゆきます。資金調達、市場動向……そういった諸々のファクターをどう組み合わせてゆくかに、テイクオフの成否がかかっていると言ってもよいでしょう」

コンサルタントとしての専門能力の源泉はどこに?

 藤沢さんの経営コンサルティングは、古巣であるマッキンゼーのコンサルティングノウハウと重なる部分が多いのだろうか?

 そう尋ねると、「いいえ、それはありません」と明確に否定する。では、どういうコンサルティングをしているのか。

 「私はかつてネットワーカーとして全国を駆け回っていた頃に、まさにイノベーティブな経営センスをもった各界のリーダーたちと集中的に出会い、その後もおつきあいさせていただいています。私が経営上のアドバイスをする時にはいつも、そうした方々から体感的に学んだものをベースにした“勘”を重視します。なぜなら、論理的に導かれる結論というのは、多くの場合、“無難な判断”になるからです。もちろん、それが必要な場合もありますが、前例のないような状況の中で思考をブレイクスルーさせる時に大切なものは“勘”なのです。勘と論理が50%ずつという感じです」

 筆者は、これこそは、有能な経営コンサルタントとしての偽らざる本音だと思うし、外資系出身の若手コンサルタントとしては、非常に勇気ある発言だと受け止める。それはなぜか……?

 日本の経営コンサルタントは、大きく2つのタイプに分けられる。1つ目は、欧米の最新の経営理論に基づいてパッケージ化されたサービスを提供するタイプで、しばしば大企業を顧客とし、MBAを取得した若く野心あふれるコンサルタントが多い。

 2つ目は、自身の長年にわたる「経験・勘・度胸(いわゆる“KKD”)」で、中小企業経営者や老舗の商店主などを相手に、「よろず相談うけたまわり」として、あらゆる経営相談に親身になって対応するコンサルタントだ。当然このタイプのコンサルタントには高齢の男性が多く、「おやじさん」などといって顧客から慕われている人も多い。

 そうした業界の現状を熟知した上で、歳若い身で、敢えて「勘」の重要性を強調する藤沢さん。それだけ、彼の実績に対する高い評価が業界内に存在し、彼自身もそのことを自覚しているからだろうと筆者は思う。

 そしてまた、呉服店を経営してきた母親のDNAを受け継ぎ、かつ、その母親の背中を見て育ったという藤沢さんならではの生い立ちも、バックグラウンドとして、彼の経営センス形成に影響を及ぼしているのではないかと推察されるのである。

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