歴史的建造物を救え!――古都ウルムの大聖堂修復プロジェクト松田雅央の時事日想(1/3 ページ)

» 2009年02月24日 11時55分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)


 ドイツを旅行すると気付くのだが、大きな教会は必ずといっていいほど修復工事をしている。記念写真を撮ろうとしたら無粋な工事用足場がファインダーに入ってしまい残念、という経験をされた方も少なくないと思う。

 石造りの建物も年数を重ねれば建材が痛み、修復を怠ると石材の落下や建物崩壊の危険が生じる。ノミとハンマーの時代と違い今は小型の削岩機を使えるから効率は高いが、作業にはどうしても長時間を要する。大聖堂(教区最高位の教会)の規模になると絶え間なく修復箇所が出てくるため、付属の建設作業所を常設し、1年中修復工事ということになる。

 14世紀終りに建設が始まったゴシック様式のウルム大聖堂は有名なケルン大聖堂をしのぐ世界一の高さ(161.53メートル)が自慢だ。今回はこのウルム大聖堂南塔で行われている修復プロジェクトの様子をレポートしたい。

ウルム大聖堂の南塔

石材劣化の原因

 石造りの建物を傷める第1の要因は自然環境だ。ドナウ川の近くに建つウルム大聖堂は湿気と乾燥に繰り返しさらされ、氷結や急激な温度変化も石材を徐々に劣化させる。

階段の石材表面の剥離

 それに加わるのが人為的要因だ。産業革命以降の大気汚染、特に硫黄酸化物が建材を傷め、石材によっては表面が黒く変色している。また戦争被害も致命的だが、第2次世界大戦の爆撃でウルム大聖堂が直撃を免れたのは奇跡的なことである。

 ウルム大聖堂建築作業所のロンメル所長によれば10数年前、40メートルの高さから突然こぶし大の石材が落下したそうだ。幸い、落ちたのが建設作業所の敷地だったため怪我人はなかったが、運悪く人に当たれば間違いなく重症を負ったはず。そういったきっかけもあり、1996年にこの南塔修復プロジェクトが始まった。

イングリッド・ロンメル所長
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