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» 2009年02月17日 07時00分 UPDATE

それゆけ!カナモリさん:これを考えたヤツは天才だ……そう感じさせた“赤い電車”とは (2/3)

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2月9日 個食化に対応するキーワードは「ピッタリ感」

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 中味は同じ食品。発売元もブランドも全く一緒。295グラムで180円と150グラムで160円。あなたはどちらを選ぶだろうか……。単価計算をするまでもなく、295グラム入りの方がオトクなのは誰でも分かる。しかしあえて、このメーカーは150グラム入りの商品を追加発売するという。

 2009年2月5日、カゴメが出したニュースリリースを見てみよう。「手作りトマトメニューをおいしく、簡単に!「基本のトマトソース」295g リニューアル〜少人数世帯向けの小容量150gレトルトパウチも新登場〜」

 トマトにこだわる同社が、消費者の節約志向による内食回帰を要因に、トマト調味料の市場は、拡大傾向にあると商機を見てパッケージリニューアルし、拡販を狙っている。それと同時に、少人数世帯向けの小容量タイプを追加することで、トマト調味料市場の更なる拡大を図るという。

 狙いは確かに分かる。しかし、ナゼに単価換算すると全く釣り合わない2つの商品を発売するのかと疑問に思う方も多いだろう。だがここがマーケティングの面白いところだ。消費者心理は経済合理性だけでは説明できない。そのことを見抜いた、価格戦略だ。

 次に昨年末にMSN産経に掲載されたコンビニエンスストアに関する記事「ファミマ、生鮮食品の扱い拡大へ 全店舗の半数で」を見てみよう。

 記事では、最近は、スーパーが自転車や車で行ける距離でも、歩いていけるコンビニで少量だけ欲しいというニーズは高齢者や独身者を中心に想像以上に強い、と立地の利便性について言及しているが、「少量、使う分だけ買える」という要素もかなり強いはずだ。少人数世帯の進行とともに各自が好きな時に好きなものをバラバラに食べる「個食化」も進んでいる。買い込んだ材料で大量に料理する習慣は失われつつあるということだろう。

 その影響からか、スーパーでは1玉150円でキャベツを売り出すより、半玉150円で売り出した方が、売れゆきがいいという現象も起きているという。少人数家庭化、個食化の現状では1玉を使い切るうちにダメにしてしまうことも少なくない。みすみす、自分が代金を投じて購入するものを廃棄する“もったいなさ”を考えると、手を出すのを躊躇する。半玉であれば使い切れそうなので、気軽に購入する。

 半分ダメにするのではなく、3分の2使って、3分の1廃棄すれば1玉の方が特になるのだが、そうした合理性では割り切れないのが人のココロ。トマトソースも半分使って、半分を保存容器に入れるなり、冷凍すればいいのだが、そうした面倒なことはしたくない。

 少人数家庭化、個食化はまぎれもない環境の変化である。そうした変化に対応するためには、消費者の心理に対応した戦略立案が欠かせない。少し古い事例であるが環境の変化で売れ行きが激減し、「個食化」に対応して見事な復活を遂げた食品がある。

 プレジデントロイターに、「フジッコ―低迷した主力商品を生き返らせる」と題した記事が掲載されている。

 記事によれば、煮豆市場は1998年頃から長期的なダウントレンドに突入。2000年に約5400円だった100世帯あたり購入金額が、05年には約4700円に減少していたといい、市場調査により煮豆を食べない背景として、「一人暮らしになったから」「夫婦ふたりきりになったから」という家族形態の変化を契機とした“煮豆離れ”が起きていることが分かった。

 つまり、内容量が平均で160グラムある家族向け商品の「おまめさん」は、個食化が進んだ時代に合致しない商品になっていたことが分かったのだ。そこで同社は、食べきれる量目・食べやすい容器・そのまま食卓に置けるをコンセプトに商品開発を進め、新製品「やわふく」を発売。工場の能力が追いつかないほどの売れ行きとなった。

 既存製品よりグラム単価は高くなっているが、1人でも食べられるような個食対応をした結果、自分用に「ぴったり」だという感覚を生み出した。これこそが単価計算で判断されるのではない、価値観への訴求なのだ。

 原材料の高騰に始まり値上げが相次いだ食料品や外食産業。そこに経済の低迷が追い打ちをかけ、消費者の財布のひもは固くなり、企業は厳しい対応を迫られるようになった。安易な値上げは顧客離れを招く。競合との値上げのガマン比べに負ければ顧客を奪われる。

 そんな中で、価格は同等か若干引き下げ、内容量を減らす「量目調整」が行われているケースも散見されるようになった。消費者に気づかれにくい「実質値上げ」となる量目調整はネガティブにとらえられがちだ。しかし、上記の三つの例はどれも、実質的には割高なのにもかかわらず、消費者に選ばれる。

 その昔、米国での話。公園で若者がポップコーンを売っていた。さっぱり売れない。そこで、公園に来ている人々をつぶさに観察することにした。数多くの老人。小さな子供の手を引いた母親。彼は気づいた。老人や小さな子供では自分が売っているポップコーンでは量が多すぎて食べられないのだと。量を半分にして売りに出してみると、狙いは的中。多くの人が買いに集まったという。

 量目は製品戦略の一部であり、価格戦略とも密接に関連している。だが、それだけを考え悩むのではなく、まずはターゲットを明確にして、そのニーズを探ることが肝要なのだ。そして、ターゲットが「自分にピッタリ」と思えるものを提供する。マーケティングの基本にも通じるが、忘れてはならないことである。

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