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» 2009年02月17日 07時00分 UPDATE

それゆけ!カナモリさん:これを考えたヤツは天才だ……そう感じさせた“赤い電車”とは (1/3)

筆者の金森氏が画像を見て「これを考えたヤツは天才だ」と感じさせたモノとは何だろうか? それはさりげないようだが、よく考えればムリなカタチ……。今回は鉄道マニアグッズと女子高生向けに作られた、巧みなコラボを紹介しよう。

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それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年2月13日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


2月6日 あのコトラーも賞賛!「キットカット」のマーケティング

 バレンタイン商戦真っ盛りの店頭で、強い存在感を示している商品がある。キットカットだ。現代マーケティングの大家フィリップ・コトラーも賞賛した、その独自の戦略を見てみよう。

 バレンタインコーナーの横で販売されている「キットメール」。郵送可能なサイズの箱にキットカットが4本入っており、140円切手を貼れば、メッセージを添えてそのまま郵便で送れるというパッケージである。今年の「キット、サクラサクよ。」キャンペーンの目玉的商品といっていいだろう。キットカットを、離れた人でも届けられる。しかも想いや祈りを込めたメッセージをつけて――。画期的な商品だ。

 キットカットが展開しているこの「受験キャンペーン」。 “マーケティングの教科書”として世界中で愛読されているコトラーの著作『マーケティング原理』の新版に掲載されることとなったという。

 その内容と成功のヒミツに関しては、ITproに掲載されているネスレコンフェクショナリーの高岡浩三社長の講演記事「我々のマーケティングは宣伝,広告から離れることから始まった」と、担当クリエイターである関橋英作氏が日経ビジネスオンラインに執筆しているコラム「あのフィリップ・コトラーが、キットカット受験キャンペーンを取り上げる意味」で、当事者の分析を確認していただきたい。

 上記の二つの記事で成功要因とされているのが、マス的アプローチから離れてターゲットを見極め、ターゲットが求める価値を提供したということだ。そのアプローチは受験キャンペーンだけではなく、キットカットというブランドの力の源泉となっている。それはバレンタイン商戦に参戦している商品にもしっかり生かされているようだ。

 「キット、想いとどく。」だ。パッケージをハート形に飾り、一袋を取り出してフタ部分を切り取ると、残った1袋だけ入る箱に組み立てられ、メッセージをその箱の内側に記入できる仕組みになっている。さらに、青春の甘酸っぱいレモン味ときている。

 同社のプレスリリースには、女子中高生が「キットカット」を『はんぶんこ』して恋愛の告白シーンに使用している例にヒントを得て、「キットカット」で恋愛の『想い』や『願い』を応援できる商品として、女子中高生の声を反映させながら開発しました、とある。

 何という絶妙なターゲット設定とニーズの拾い方であろうか。「本命には手作りのチョコを」という風習が、中高生女子には根強いという。10代向けの雑誌にはこの時期、手作りチョコ特集が花盛りではある。「意気込んだ手作りはちょっと恥ずかしい。市販のチョコなら、軽い気持ちで伝えられるかも。でも、特別な想いは伝えたい」。そんな微妙なオトメ心とターゲットを見極めた戦略なのではないだろうか。

 マーケティングの原点ともいうべき戦い方に力を注ぐようになった以前のことについて、関橋氏はコラムの中でこう述懐している。それまでのキットカットの価値は、ウエハースが入ったチョコでサクッと食べて気分転換。つまり、物理的な機能に焦点が当たっていました。逆にそれが、ビジネス的に限界を作っていたのです。

 「キットメール」や「キット、想いとどく。」は物理的には「レギュラー製品のパッケージ変更」だが、その意味はもっと深い。「ウエハース+チョコ=サクサクしたお菓子」という商品特性を離れて、それを包むパッケージで、ターゲットの使用場面に合わせたニーズとの適合を図っているのだ。顧客のニーズを深堀りせよ。マーケティング担当者が肝に銘じていることであろうが、言うが易し。この徹底こそが、キットカットの凄さなのだ。

yd_choco.jpg 「ネスレ キットカット キット、想いとどく。」

 製品を作り替えることもキットカットは得意としている。2000年にストロベリーフレーバーを期間限定で発売し、続く01年にオレンジを発売。その後も着々と期間限定商品を増やし、現在では毎月のように限定モノが発売されている。単なる話題喚起ととらえるには、かかる労力はすさまじい。

 メインターゲットとなる若年層のキモチは移ろいやすい。常に刺激を与え続けなければ、簡単に他の商品にスイッチしてしまう。もしくは購買頻度が低下する。つまり、「キットカットは常に新しいフレーバーを提案し続けます」というメッセージをターゲットに送り続けているのではないだろうか。それはブランドのプロミスであり、価値の提供でもある。

 お土産需要を取り込むご当地キットカットもある。例えば昨年発売されていた「キットカットしょうゆ風味 」。同社のウェブサイトによると、東京に根付くしょうゆ文化を表現した、という。東京限定で都内の空港、駅、サービスエリアなどで販売されていた。これもまた、商品の細分化戦略である。

 若年層も、やがてキットカットを離れていく。筆者もその1人だ。ところが、お土産を探しているうちに、もしくはお土産としてもらうことで、キットカットとのリレーションが復活する。そのきっかけ商品としても機能するのがこのご当地キットカットだろう。

 マス的アプローチから離れてターゲットを見極め、ターゲットが求める価値を提供する。ターゲットの細分化したニーズをすくい取るためには、提供価値も、商品自体もどんどんと膨張していく。一見、効率的に見えない展開だが、もはや「消費者」という一個のカタマリでとらえていては生き残ることはできない時代である。細分化しつつ膨張を続けるキットカットの戦い方に学ぶところは多い。

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