保護主義化を排除できるのか? バイアメリカン条項に潜むワナ藤田正美の時事日想

» 2009年02月09日 08時47分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 オバマ大統領が懸命に議会を説得していた景気対策法案。共和党の強い抵抗に遭いながらも週明けには上院でも修正の上、可決される見通しになった。下院はすでに法案を可決しているため、両院協議会ですりあわせることになる。オバマ大統領にとってはホッと一息という場面だろうか。

 この法案審議の過程で盛り込まれたいわゆる「バイアメリカン条項」。要するに国がカネを出す事業では、資材などとして購入する物については米国製を選ぶことを義務付けるといものだ。この条項が盛り込まれるということが報道されたとき、世界の指導者は80年前の悪夢を思い出したかもしれない。

 もちろん保護主義的な政策の誘惑は政治家にとって時に抗しがたいほど強い。国民が納めた税金を国民のために使うという論理は分かりやすいし、雇用を守るといえば有権者は素直に反応する。しかしその結果、むしろ国民の雇用も、国内の産業も守れないということになるのは歴史を見れば明らかだ。1929年の株価暴落が大恐慌に発展し、米国で4人に1人が失業するというような事態になったのは、米国が保護主義に傾いたからだとも言われている。もしそうしなかったら、単なる不況で終わったのにと言うエコノミストもいる。

経済的ナショナリズムを擁護する

 エコノミストの最新号(2月7日号)が、この保護主義の復活に警鐘を鳴らしている。以下、それを紹介する。

 貿易はそれぞれの国の特化を進め、それが繁栄につながる。グローバルな資本市場は、それぞれの国の資本市場よりも、効率的に資金を配分する。経済的な協力はお互いの信頼を推進し、安全保障を強化する。こうした明らかなメリットがあるにもかかわらず、いまグローバル経済は脅かされている。

 経済的ナショナリズムを擁護する論点が3つある。(1)ビジネスとしても正当化できる、(2)政治的にも正当化できる、(3)保護主義がどこまでも進むわけではない――。

 しかしそれに対して反論もできる。確かに損害を被った銀行は、自国の市場に撤退すれば安心感を得られるかもしれない。しかしこれは銀行を支援した政府が望むところとは違う。また2については、政治家が国民が払った税金を国内で使いたいというのは理解できる感情だが、それに伴うコストがある。もし保護主義になれば、その代償はあまりにも大きくなる可能性がある。

 さらにどんどん保護主義が進むわけではないというのは、危険な議論だ。米国が通した悪名高き1931年のスムート・ハーリー法(自国産業保護のために関税を引き上げた)にしても、心ある人々は反対運動を展開していた。エコノミストも反対の署名を集めていた。しかしいったん経済的ナショナリズムに火がついてしまうと、その勢いを止めるのは非常に難しい。

 問題は米国、オバマ政権がどう動くかである。すでに上院で採決される景気対策法では、保護主義的な項目はかなり緩和されているはずだ。もしそうでなければ保護主義は必ず報復を生む。報復されればさらに報復をするという悪循環が生まれる。それでなくても2009年の世界貿易が1980年代以来収縮すると言われているのに、こうした悪循環がもし生まれればそれどころではない。その結果、得をする国は1つもない。

経済的ナショナリズムを排除できるのか?

 経済的な紛争が起こる可能性がかつてなく高まっているとき、自由貿易を棚上げしようとしている国を説得できる可能性があるのは、米国の指導者だけだ。国際的な経済システムは誰がそれを保証するかに拠っている。19世紀には英国がその役割の一部を担った。第1次世界大戦と第2次世界大戦の間は誰もそれを担わなかった。その結果は惨憺(さんたん)たるものである。

 戦後米国が新しい経済秩序を支えたのは、こうした歴史の経験も1つの理由だ。いまその役割は再び米国の肩にかかっている。オバマ大統領が景気対策法に含まれる経済的ナショナリズムを完全に排除できるかどうか。もしできなかったら、米国もまたそれ以外の国も大きなトラブルに直面することになるだろう。

 上記がエコノミスト誌の記事の概略であるが、自由貿易のありがたみを1番感じている(あるいは感じなければいけない)のは日本であるはずだ。今のところ、日本は基本的に自由貿易政策の堅持を世界各国に訴えているが、場合によってはもっと声高にそれを主張しなければならないかもしれない。果たして麻生さんにそれが可能だろうか。

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