「クラシック音楽に深く接してこなかった方にこそ聴いてほしい」――“魂のピアニスト”浦山純子氏あなたの隣のプロフェッショナル(1/6 ページ)

» 2009年02月06日 11時30分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

「あなたの隣のプロフェッショナル」とは?:

人生の多くの時間を、私たちは“仕事”に費やしています。でも、自分と異なる業界で働く人がどんな仕事をしているかは意外と知らないもの。「あなたの隣のプロフェッショナル」では、さまざまな仕事を取り上げ、その道で活躍中のプロフェッショナルに登場していただきます。

日々、現場でどのように発想し、どう仕事に取り組んでいるのか。どんな試行錯誤を経て今に至っているのか――“プロの仕事”にロングインタビューで迫ります。インタビュアーは、「あの人に逢いたい!」に続き、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏です。本連載では、知っているようで知らない、さまざまな仕事を取り上げていきます。


ピアニスト、浦山純子さん

 2009年の正月、テレビや新聞をにぎわした最も大きな話題の1つが「派遣切り」だ。現代日本をめぐる社会経済環境は日々悪化しており、明日への展望が見えにくくなっている。「癒やし」「ヒーリング」がブームになって久しいが、もはや、そんなレベルでは追いつかないくらい、人々の心は荒み、追い込まれているように見える。

 こうした状況に危機感を覚え、「自らの演奏を通じて、人々が素の自分と向き合い、生きる勇気や希望を感じられるようにしよう」と動き出したピアニストがいる。

 その名は浦山純子さん(36歳)。2005年に欧州から帰国し、今はロンドンと日本を往復しながら演奏活動を展開するピアニストだ。そのレパートリーはショパンを軸にしつつも、バッハ、モーツァルト、ベートーベン、シューマン、リスト、ドビュッシー、プーランク、ラフマニノフ、グリーク、伊福部昭、武満徹など多種多様である。

 そして彼女の演奏スタイルは、現代で一般的な卓越した技巧と磨き抜かれた美音を武器にした演奏とは一線を画している。彼女が2007年にロンドンで録音したCD(ピアノ小品集「ソワレ」)を筆者は聴かせていただいた。微妙に揺れるテンポ、音楽の呼吸が人間の生理と同調し、音楽が自然に心の中へとしみ込んでくる。そして、ふとした瞬間に現われる絶妙な「間」。そこに漂う言いようのない寂寥(せきりょう)感が、聴く者の魂を揺さぶる。漂泊の人生を送ってきた彼女の魂が楽曲に乗り移り、それがさらに聴く者の魂へと乗り移っているかのようだ。

 奏でる音楽だけではなく、彼女の人柄も実に魅力的。気取った女性かと思って身構えていたが、話してみるとどこまでも明るく気さくそのもの。「口下手ですいません」と笑ってジョークを飛ばしつつ、陽気かつ雄弁に語り続ける。

 1月に大分県で行われたリサイタルでは、深い音楽性だけでなく彼女のキャラクターも魅力となってか、大勢の立ち見客が出て、終演後には感激した来場客たちが彼女のもとに詰め掛けるなど、大盛況だったという。地方都市の公演、しかも退潮著しいクラシック音楽の世界では異例の出来事と言えるかもしれない。

・リサイタルの1シーン

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