廃線の危機から脱出できるか? 第三セクター・北条鉄道の挑戦近距離交通特集(5/6 ページ)

» 2009年02月04日 07時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

北条鉄道の可能性

 第三セクター鉄道を続けるか、廃止するか。三木市は三木鉄道の廃止を選択した。しかし加西市は北条鉄道存続の道を選んだ。三木市には神戸電鉄も通っており、市の中心部と神戸市街は直結されている。そもそも三木鉄道は開通当初から貨物輸送が主体の路線で、旅客輸送に適した立地ではなかったとも言われている。一方、加西市にとって鉄道系アクセスは北条鉄道のみである。だからこそ「鉄道を維持したい」という意識が強く働いたと言える。だが、それにしては今まで収益改善の努力をした形跡が見られない。

 北条鉄道をいかに存続させるか。現在の加西市長であり北条鉄道の社長でもある中川暢三氏は、2つの戦略をとった(関連リンク)。

 1つは民間企業として当然の経営改革を実施することだった。まず、当事者意識を持たず、経営基金枯渇までの事態を看過した取締役を退任させた。後任には鉄道経営に詳しい取締役を2人選任。市民からも取締役を公募して2人を選任。監査役も市民に要請した。行政側からの取締役は兵庫県から1人、加西市職員から1人。そして加西市長の中川氏が就任した。経営には加西市長が積極的に関与し、資材や工事の発注は複数の取引先から見積もりを取るなど、ごく当たり前の経営改善努力をしたという。

 もう1つは“市民の鉄道”としての増収とイメージアップである。ダイヤを改善してコストダウンと利便性向上を試み、観光客など市外からの利用客のために1日乗車券や記念乗車券を発売した。また、冬の「サンタ列車」や夏の「かぶと虫列車」、秋には「ハロウィン列車」などを走らせている。これは新聞やテレビでの報道効果もあり、市外からの集客にも成功しているという。

 ユニークな取り組みの1つが「ステーションマスター制度」だ。北条鉄道の各無人駅に、無報酬の駅長を募った。駅の清掃や修繕の義務は課さない、切符販売のノルマもないが、市民との橋渡し役を期待した。このユニークな試みは「市民の鉄道という、新しい存在意義を見出した」として、2006年の「新日本様式」100選に選ばれた。

2006年に「新日本様式」100選にも選ばれた

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