廃線の危機から脱出できるか? 第三セクター・北条鉄道の挑戦近距離交通特集(4/6 ページ)

» 2009年02月04日 07時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

鉄道は加西市民の足として貢献

 午後は北条鉄道の各駅を見物してみた。北条鉄道は起点の粟生駅から順に、網引(あびき)駅、田原駅、法華口(ほっけぐち)駅、播磨下里駅、長(おさ)駅、播磨横田駅、北条町駅の計8駅を結んでいる。このうち、加古川線との接続駅となる粟生駅が小野市、それ以外の7駅は加西市と、総延長13.6キロメートルのほとんどが加西市に属している。これらの駅を終点の北条町駅から逆にたどっていった。

 北条町駅にはコンクリート造りの立派な駅舎がある。研修施設や本社機能があり、加西市の玄関口となっている。駅舎が新しい理由は、この駅が2001年に移設されたときに建て替えられたからだ。それまではもう少し先に伸びていた。旧駅があったところには現在、商業テナントと市立図書館が同居する市街地再開発ビル「アスティアかさい」が建てられている。

 終点の北条町駅と起点の粟生駅以外の6駅は無人駅である。このうち、法華口駅と播磨下里駅、長駅には古くて小さな駅舎があり、それ以外の駅には屋根付きの小さな待合所が設けられている。無人駅とはいえ、北条鉄道から任命された「ボランティア駅長」がいるせいか、どの駅も清掃が行き届き、花壇や庭木の手入れも行われているようだ。

 北条鉄道の最終列車は粟生駅発23時12分の北条町駅行きである。ローカル鉄道で23時台の最終便という設定は経営努力だと言える。乗客は約10人と少なめであるが、その前の便は30人ほど乗っていた。休日の前日ならもっと混んでいるかもしれない。この終電があると思えば、22:00頃まで神戸や三宮、姫路に滞在できる。加西市が神戸や姫路のベッドタウンであるために、この終列車は重要だ。

最終の1つ前の列車が北条町駅に到着

 翌朝、北条町を6時44分に発車する列車に乗ってみた。始発から2番目の列車で、通勤通学時間帯に当たることから2両連結となる。北条町駅を出る時に座席がすべて埋まっており、途中の駅で数人から20人ほどが乗ってきて、粟生駅に着くまでにほぼ満員になる。車両の定員は120人なので乗車率を150パーセントとすると、2両で約350人が乗っていると思われる。この盛況を見る限り、確かに北条鉄道は市民にとって必要な生活の足である。

 北条鉄道には列車のすれ違いができる駅はないので、片道22分で行ったり来たりを繰り返すこととなる。ダイヤは約1時間に1往復で、1日あたり17往復する。日中は1両の単行運転、朝夕のラッシュ時間帯は2両連結で対応している。かつては法華口駅に列車のすれ違い設備があり、これを復活させる計画もあったという。しかし北条鉄道に聞いたところ、「すでに図面はできているが、予算が捻出できず凍結されている」そうだ。国鉄から第三セクターへ転換される時に、国から経営安定基金が支給された。その資金で設備を完成させておけば、運行回数を増やして旅客を増やし、収益を好転できたかもしれない。悔やまれる部分である。

朝の粟生駅、大勢の乗客が降りてきた

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