廃線の危機から脱出できるか? 第三セクター・北条鉄道の挑戦近距離交通特集(3/6 ページ)

» 2009年02月04日 07時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

北条鉄道を訪ねて

 加西市は兵庫県のほぼ中央に位置する。人口は約5万人。市の北半分は山地であり、人口分布は南半分に寄っている。市役所所在地は市の中心部の北条町である。山地と平野部の境界を中国自動車道が横断しており。大阪市や神戸市からは高速バスで約1時間半。姫路市からは約50分ほどの距離だという。鉄道によるアクセスは北条鉄道のみ。

北条鉄道路線図

 神戸市や姫路市から行く場合は、JR山陽本線の加古川駅からJR加古川線に乗り換えて粟生(あお)駅へ行くと、そこから北条鉄道が分岐している。神戸から出かける場合は神戸電鉄を利用すると、ほぼ直線的に粟生駅に到達する。山陽新幹線の新神戸駅からは北神急行電鉄で北に向かうと神戸電鉄に乗り継げる。

 羽田発6時50分の全日空機で神戸空港到着が7時50分。伊丹空港が近いため、開港前は存在意義が問われた神戸空港だが、搭乗率は7割ほどと「意外と乗っている」という印象だ。神戸空港からは神戸新交通ポートアイランド線で三宮駅へ。神戸高速鉄道と神戸電鉄を乗り継いで粟生駅に10時04分着。ここから10時08分発の北条鉄道に乗り換える。ワンマン運転のディーゼルカーが1両だった。運転士氏から北条鉄道1日フリー切符(1000円)を購入し、まずは終点まで通しで乗ってみた。

 車窓から見る限り、北条鉄道の沿線は住宅と田畑ばかりである。加西市は神戸市や姫路市のベッドタウンであり、主な農産物は野菜とブドウ、山田錦という酒造用の米だ。かつては中堅家電メーカーの工場があり、「加西市の特産物は掃除機」という冗談もあったという。しかし工場は合理化で撤退し、跡地には大型のショッピングセンターができた。終点の北条町駅には10時30分に着いた。東京から約4時間程度の所要時間であった。

 平日の10時といえば、通勤、通学ラッシュも終わり、ローカル鉄道にとって最も閑散とする時間帯だ。大都市の鉄道であれば外回りの営業マン、あるいは買い物に出かける奥様方、遅い授業やアルバイトに出かける学生が乗ってくれる。しかし、地方のローカル線ではせいぜい病院へ行く老人が乗る程度だ。用事で出かける人はクルマを使うからである。路線によっては、この時間帯には誰も乗っていないことも珍しくないだろう。

 しかし、北条鉄道の車内は混んでいた。約40人ほどのお客さんが乗っており、座席はほぼすべて埋まり、運転台付近は立っている人もいる。ほとんどの乗客は男性で、年齢層は20代から50代だった。スーツを着た男性は営業マンだろうか。取材日は北条町駅そばのイオンショッピングセンターが開業準備中だったから、取引や就職面接かもしれない。途中の駅からも2〜3人の乗車があった。北条鉄道沿線は住宅と畑しかない。通勤ルートとしては姫路市や神戸市へ向かう流れが大きいはずだが、加西市中心部の北条町に向かう人の流れもあるようだ。

午前中の列車内

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