コラム
» 2009年01月22日 07時00分 UPDATE

山崎元の時事日想:ある雑誌編集者に見る、“優しいリストラ”の手口 (1/2)

購読部数や広告費の減少などにより、“出版不況”が続いている。ある雑誌の編集者も、担当している雑誌の「休刊」にともない、会社を辞めるという。しかしその実態は、会社による“優しいリストラ”なのかもしれない。

[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『超簡単 お金の運用術』(朝日新書)など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


 ある日、会社の会議室で雑誌の取材を受けた。いずれも馴染みのある顔だが、若手の編集者が3人もやって来たことが少し珍しい。新年のあいさつだけを目的に来たのなら、随分丁寧なことだと思ったが、話の様子がぎこちない。

 実は、彼ら3人のうち2人が、来月一杯で会社を辞めることになったのだという。

「優しいリストラ」に注意

 「転職なら何はともあれ、『おめでとう』と言いたいところですが、次はどうされるのですか」と聞くと、2人とも「編集の仕事を続けていこうと思っています」と言う。「どこで? まだ決まっていないの?」と再度聞くと、一方が頷いた。一拍置いて、もう1人も首を縦に振る。彼らは、次の就職先を決めずに、会社を辞めることにしたらしい。今までの仕事は、残りの1人の編集者に引き継ぐのだという。

 事情を聞くと、彼らが担当していた媒体(雑誌)が休刊になるらしい。雑誌の「休刊」は、実質的には「廃刊」に近い。復活するケースはごくまれだ。昨年はいくつもの雑誌が休刊のやむなきに至った。『月刊現代』『ダ・カーポ』といった、かつては多くの読者を持っていた有力誌も休刊に追い込まれた。

 それにしても、彼らは2人とも、編集部に雇われたフリーのライター編集者ではなく、出版社の社員のはずだ。別の仕事をすればいいのではないかと聞くと、「それは難しい」と答える。

 彼らはビジネス系の取材経験もあり、筆者は、転職について取材されたこともある。その時に「転職は、猿の枝渡りのようなものだ。次の枝をしっかりつかんでから、今の枝から手を離す。次をしっかり決めてからでなければ、退職手続きをしてはいけない」と説明したはずだった。

 その理由を確認すると、以下の通りだ。

 (1)次の仕事がすぐに決まらない場合、仕事のキャリアに空白ができて、人材価値が落ちる。これは、将来就職した場合の換算年次(人事的な扱い上の「年次」)や給料にも響くことがある。

 (2)「自己都合」で辞めた場合、失業保険の受給が遅れるし(通常3カ月経ってから)受給期間も短い。また、会社の規定によるが、多くの場合、退職金が少ない(会社都合の場合の半分程度であることが多い)。

 (3)無収入期間が長引くと、次回の就職時の給与交渉が不利になることがある。

 (4)次がなかなか決まらないと精神的に焦る。面接もうまく行かなくなることが多い。

 (5)何より、今のような不況下では、生活が心配だ。

 彼らも、こうした事情が分からないわけではないらしい(当然だ。筆者は、説明した記憶がある)。しかし、退職に同意してしまったのだという。

会社と争わなかった2人

 彼らの勤めていた出版社は、急速に業績が悪化した。実は大手も含めて、現在、出版社の業績は相当に悪い。だが、その中でも、彼らの会社の収益悪化は早かった。加えて、昨年も今年入社予定も含めて、相当の数の新入社員を雇ってしまった。これは、経営者側の読み違いでもある。だが、コストのカットは待ったなしの状況なのだろう。

 しかし、結論から言うと、彼らの解雇は不当だ。今回のケースは正社員の整理解雇だから、解雇がやむを得ない業績の悪化、解雇回避の努力、解雇対象者の納得的選別基準の提示、解雇者の納得を得る努力、といった正社員解雇の法的条件を、彼らの会社は満たさなければならない。彼ら2人は、十分争う余地があるはずだし、簡単に引き下がらずに交渉すれば、解雇を撤回できないまでも、何らかの経済的なメリットを引き出せた可能性が大きい。

 しかし、2人は争わなかった。

yd_magazine.jpg ビジネス・マネー誌の発行部数(出典:日本雑誌協会)
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