たかが知れている? 切られ続ける派遣社員の“暗黙知”それゆけ!カナモリさん(2/3 ページ)

» 2009年01月07日 09時40分 公開
[GLOBIS.JP]

12月16日 派遣切り「2009年問題」事務職は大丈夫か?

 熟練労働者の大量定年を迎えるにあたり、いかに技術伝承をするかということがテーマとなった2007年問題の話ではない。2009年に多くの派遣社員が契約期間満了を迎えるが、昨今の経済情勢で、契約が更新されず、大量の失業者が出るという問題だ。だが本当の怖さは、ちまたで話題になっている製造業の現場だけではなく、事務職の派遣社員にも飛び火しつつあることなのだ。

 「派遣」という言葉は、2007年には流行語大賞にもなった。新しい雇用形態として注目され、多くの労働人口がその雇用形態に移行した。今日、いわゆる「正社員」ではない「非正規雇用」の労働人口は320万人という統計もある。

 製造業の現場にフォーカスされることが多い問題であるが、事務職の現場における派遣労働者は、いわゆる「ホワイトカラー」のサポートとして欠かせない戦力となっている。以前から経済学や経営学の世界で指摘されてきたことではあるが、日本のホワイトカラーの労働生産性は世界と比べると低いと言われている。その原因や解決方法は別途論じることとして、それを補っているのが、派遣労働者のサポートではないだろうか。

 今回は特に、筆者の専門領域であるナレッジマネジメントの観点から警鐘を鳴らしたい。

 事務サポートを行っている派遣労働者は、正社員の陰となり、さまざまな業務をこなしてきた。そしてその多くは、「マニュアル」や「手順書」などに記されていない(そもそも、ホワイトカラーの業務にはそうしたものが存在していないことが多いのだが)業務である。

 そして、派遣社員が辞める時には、正社員の知らぬところで派遣社員同士で簡単なメモと口伝で引き継ぎが行われる。数日間、派遣社員同士でOJTという形での引き継ぎが行われる例もあるようだ。そこで、暗黙的なナレッジの継承が行われているのである。

 2007年問題でもナッレジの継承が課題となった。その方法は、企業によってさまざまであるが、筆者は米国において開発された「シャドウイング」という手法を提唱し、同様な手法をとった企業も多かったと聞く。

 端的に言えば、熟練労働者の技術を伝承するために、アナリストが張り付いて、熟練の技を観察し、一挙手一投足を余すところなく記録し、分析し、形式知化するとという手法である。

 このように、2007年問題においては極めて慎重に行われてきた「暗黙知の伝承」が、今回の2009年問題においては、極めて短絡的に契約延長をしない、つまり実質的な解雇というだけの、突然の断絶という現象を引き起こしているようにみえる。その根底には、「派遣社員が抱えている暗黙知などたかが知れている」というおごりがないだろうか。

 2009年は、この問題によって、ただでさえ生産性が低いと指摘される日本のホワイトカラーの生産性はさらに低下するだろう。低下だけではなく、混乱をきたすかもしれない。

 経費削減のためやむを得ず契約打ち切りを選択しなければならないとすれば、引き継ぎを十分な期間を取って行うしかない。企業としては暗黙的なナレッジを含めた業務プロセスの逸失が防ぐことができるし、派遣社員・契約社員も新たな雇用先を探す猶予期間を得ることができる。

 もしそれがなされなければ、2009年は景気後退の進行に加えて、生産性の低下、職場の混乱という大きな問題が発生するだろう。

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