たかが知れている? 切られ続ける派遣社員の“暗黙知”それゆけ!カナモリさん(1/3 ページ)

» 2009年01月07日 09時40分 公開
[GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年12月29日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


12月11日 手帳の高橋とED治療薬の相似点?

 文房具、カッコヨク言えば、ステーショナリーマニアである。ちなみに、文房具屋の孫息子でもある。ヒマなときは文具の老舗・銀座伊東屋を訪れる。

 しかし、今の時期、あまりの混雑で近寄れない売り場がある。手帳売り場。商品棚にも人垣ができ、レジは長蛇の列。ちょっとパスしてしまう。もとより、筆者は青山学院大学が支給してくれる教員手帳を愛用しているので、手帳自体はここ5年ほど買ったことはない。

 ただ、教員手帳は4月始まりなので、世間様と少々季節・時間感覚がズレがちになる。普通の手帳に替えようかなとも思う。書店に行くと、手帳売り場が師走には設けられる。そこで必ず目にするのが「高橋書店の手帳」だ。

 日記・手帳・家計簿・カレンダー・暦の書店シェア41.3%と圧倒的な強さを誇っている。「手帳は高橋」のフレーズはどこかで目にしたり耳にしたことがあるだろう。駅広告やテレビコマーシャルの大量投下をしているが、その内容が凄まじいことになっているのだ。

 何を主張してるかと言えば、『2009年の高橋は、大サービス!「来年はGW5連休」』『2009年の高橋は、大サービス!「秋も5連休」』。

 ……ちょっと待て。別に高橋がサービスして平日を赤く染めたわけじゃない。日本中の手帳、春と秋は全国的に5連休だ。なのに「大サービス」と言いきるあたり、むちゃくちゃな自信だ。なぜって、肝心の「手帳の性能」について高橋は全く言及していないのだ。自社の手帳に絶対的な自信があるからだろう。

 テレビコマーシャルはもっとすごい。同社のWebサイトでCMが公開されている。

 消費者の購買決定プロセスを説明するAIDMAモデルで見てみよう。消費者はまず、その製品の存在を知り(Attention)、興味を持ち(Interest)、欲しいと思うようになり(Desire)、記憶し(Motive)、最終的に購買行動に至る(Action)という購買決定プロセスを経る。

衝撃1

古めのアヤヤ。「なぜ? いまこの曲?」と興味をそそる。(Attention)

衝撃2

踊る手帳。「なぜ? 手帳が?」と釘付け。(Interest)

衝撃3

「大サービス、5連休」

いや、確実に高橋のサービスじゃねぇ! と突っ込みながらも、そんなすてきな休日いっぱいな手帳、ぜひ欲しい!(Desire)

そして「手帳は高橋」とコール、もう忘れられない。(Memory)

 一気にActionの一歩出前まで揺さぶられてしまう。普段は手帳を購入しない人でさえ、書店の手帳コーナーに足が向いてしまうだろう。CMの完成度はそれだけ素晴らしい。だが、「日本中の手帳、春と秋は全国的に5連休」なのに、なぜ、高橋はこんな主張をするのだろうか。

 圧倒的シェアを誇るリーダーであることがヒントになる。

 手帳売り場に行かせ、手に取り、買わせれば、そのシェアのパーセンテージ通り、自社の商品が売れるのだ。手帳への需要が伸びれば伸びるほど、売上げは自社が一番伸びる。リーダーの戦略である、「需要創造策」だ。

 おかしな例だが、かつてファイザー製薬がED治療薬「バイアグラ」の拡販のため、「疾病啓発広告」を大々的に行った。「こんなあなたはEDかも。ぜひ病院へ」と。病院に行きさえすれば、自社の薬が処方されるというわけだ。

 現在、バイエル社が「レトビラ」、イーライリリー社が「シアリス」という新薬を販売しているがまだまだバイアグラの寡占市場ゆえ、各社ともインターネットを中心に広告を積極展開している状況だ。

 手帳とED治療薬、一見何の関係もないものだが、高シェアを誇るリーダー企業や寡占企業の「需要創造策」。そんな展開もあると思うと、広告もまた、新しい興味で見られるのではないだろうか。

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