体験時間を刻む時計――100年に1度の変をスローデザインで生き抜こう郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

» 2008年12月25日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター支援事業 の『くらしクリエイティブ "utte"(うって)』事業の立ち上げに参画。3つの顔、どれが前輪なのかさえ分からぬまま、三輪車でヨチヨチし始めた。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 1文字で世相を表す今年の漢字は「変」だった。変革の「変」でもあるが、やっぱり誰もが想像したのは大変の「変」。師走に入り、新聞に踊る文字や企業人が語る文字には、「落」(下落)、「縮」(縮小)、「止」(停止)、「退」(後退)などネガティブな漢字ばかりが並ぶ。

 100年に1度の変を前に、消費者はもがいている。変にのみ込まれないようにもがく消費者心理を、「スピード」と「スロー」という2つのカタカナで読み解いてみた。

スピード派とスロー派の消費者たち

 雪崩のような連鎖的業績悪化で、企業ももはや信用できなくなった。船が沈む前に素早く逃げないと激流にのみ込まれてしまう。そこで、スピード思考やスピード記憶術、スピードラーニングなどと、「素早くスキルアップや資格取得をして自己防衛しよう!」という人が増えた。だから、資格ビジネスや資格本、専門学校が好調だ。

 一方、「今さらジタバタしても遅いよ」という意識も蔓延(まんえん)。ゼミを頑張っても内定取り消しだし、中年になればリストラが待っているだけ。どうせ次の「失われた10年」の始まりだ、だったら“スローに行こうよ”という意識だ。生活防衛のためにランクを落とした買い物に走る人が増えて、ディスカウント店が好調だ。

 消費者はスピード派とスロー派に二極分化。しかし、焦って勉強しても身に付かないし、家計防衛策をしてもジリ貧であることに変わりはない。こんな時代どうサバイバルすればいいのか?

 私はデザイン業界にヒントを得て、“積極的なスローな生きかた”を提唱したい。それは“スローデザイン”というコンセプトだ。

スローデザインとは?

 スローというキーワードは、1980年代にイタリアから始まったスローフード運動が原点。そこからスローライフやスローホリデイ、ファッションにまでスローが広がった。それぞれ意味は少しずつ異なるが、一貫するのは「地域文化や伝統を大切にして、ゆっくりと生活しよう」というライフスタイルの普及を目的にしている。

 そして、近年じわりと広がる“スローデザイン”とは何か?

 それは、地産地消や地域嗜好(ちいきしこう)を取り入れた商品開発や、地域嗜好を読み取る現地リサーチに時間をかけること。もちろん資源リサイクルや循環も考慮する。まだ生まれて間もないコンセプトなので識者によりブレがある。そこでスローデザインをカタチにしたデザイナーに訊いてみた。

アフリカン・タイムの時計

 下の写真は、スローデザインを時計というカタチに消化させたもの。時計とビーズネックレスを一体化させたコンセプト作品『clock』だ。

コンセプト作品『clock』

 ビーズネックレスは、次のような仕組みで時を刻む。

  • 歯車の回転でビーズが1個ずつ落ちる。
  • 1つのビーズは5分ごとに落ちる。
  • 赤玉は60分ごとに落ちる。
  • 金玉は12時、銀玉は0時を表す。
  • ネックレスが1周すると1日が終わる。

 ビーズは部屋時計のパーツでもあり、ネックレスでもある。ひょいと首にかけ、“時間を着て”出かけることも可能だ。デザインしたのはアイスランドのソルン・アルナドッティルさん。

――なぜ装飾品と時計を一体化させようと思ったのですか?

ソラン 時間をデザインテーマにしようと思っていろいろ調べると、アフリカ人と西洋人の時についての考え方は180度違うということが分かってきました。

 西洋の時計のメカは正確で、1時間・1分・1秒と刻むものですよね。でもアフリカン・タイムは、1人の人間が生涯に何を体験したかで測ります。時を機械的な進行ではなく、情緒的な経験として扱うのです。

 チクタクという西洋時計から自由になり、個人的な体験の積み重ねを表せるようにするため、ビーズにはソロバンやロザリオ(キリスト教で祈りの数を数える数珠)、そしてアフリカ部族の美しい首飾りを参考にしました。

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