ラジオDJのよろこびとは――ラジオパーソナリティ・齊藤美絵さん(前編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(1/4 ページ)

» 2008年12月20日 12時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」とは?:

「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で目標に向かって邁進する人がいる。会社の中にいるから、1人ではできないことが可能になることもあるが、しかし組織の中だからこそ難しい面もある。

本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現するビジネスパーソンをインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。また個人の働きが、組織のなかでどう生かされたのかについて、徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。


後姿だけで雄弁にメッセージを伝える女性

 前回、禎・アレン・ゴードンさんのインタビュー記事後編でお伝えした、ハワイのコナビールとヒロホームメイドアイスクリームのコラボレーションイベント(参照記事)会場でのことだ。300人もの人々が詰めかけた会場内には熱気が渦巻いていた。ある人は友人たちとの会話に熱中し、またある人は、コナビールの味に酔いしれ、みんな思い思いに楽しい時間を過ごしていた。

 そんな中、ひとり異彩を放つ女性の姿に私の目は奪われた。彼女がいた場所は私の席からはるか遠く、後頭部と背中しか見えなかったが、その後姿は、ステージ上で繰り広げられるフラダンス、ハワイアンミュージック、ハワイ関係者のスピーチに対する限りない愛情と慈しみにあふれ、夕方から深夜に及んだイベントの間、そのオーラが減じることはなかった。

 興味を持った私は、後日、主催者の禎・アレン・ゴードンさんにお願いをして、その女性に連絡を取らせていただいた。

 後姿だけで雄弁にメッセージを伝えていたその女性こそ、今回インタビューさせていただいた齊藤美絵さんである。長身かつエネルギッシュな雰囲気漂う27歳。獅子座のB型。

人気ラジオパーソナリティとして「人々にハッピーを伝える」

FM BIRD所属のラジオパーソナリティ、齊藤美絵さん

 齊藤さんは、FM BIRDというラジオDJ専門のプロダクションに所属するタレントさんである。SFC慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(総合政策学部)に在学していたころからラジオの仕事に携わり、今日に至っているという。

 落ち着いた大人の女性を感じさせるアルト・ヴォイスで語り出す。「FMヨコハマで『WE LOVE SHONAN〜our native shore〜』(毎週日曜午後1時〜5時45分)という番組のパーソナリティを務めていまして、今年で5年目になります。また10月からJFN系列の番組『Wonderful Go! Go!』(毎週月曜・火曜午後1時30分〜午後4時)を担当させていただいたり、FM長野の『談慶の黄昏妄想族』(毎週日曜)などで喋らせていただいています。」

 活動の幅は広く、ラジオのパーソナリティに留まらない。NHKや民放キー各局のTV番組ナレーションや、各種イベントの企画・司会はもとより、CGC認定フードマエストロとして、フードプロデュース、ライターの仕事もこなしている。まさに八面六臂の活躍ぶりで、「学生時代から、分刻みで動く女、日曜日のない女って呼ばれてきたんですよ」と笑う。しかし、“忙しい”と言われることは好まないという。

 「忙しいというのは、心を亡くすということです。ですから私は、忙しいのではなく充実しているんだと考えています」と明言する。さすがは言葉のプロ。言霊(ことだま)を大切にしている。そして自分のミッションについてこう語る。「私は、人々にハッピーを伝えることが使命だと感じています。たとえ今、辛い状況にある人が聴いたとしても、心安らぐ番組にしてゆきたいんです」

 そんな彼女の語り口は、例えばこんな風だ。

 「今は夕暮れ時から夜のはじまりが何とも神秘的でドラマティック。スカイブルーから茜色、そして群青色へと移りゆく空のグラデーション、そこにうろこ雲が一面に広がったり、飛行機雲がスーッと伸びていったり。それだけで、今日という一日が特別なものに感じられます。その後10分ほど、地球がまるで深海のなかにあるかのように、すべてのものが群青に包まれるブルーモーメントを一度体感してしまうと、毎日その瞬間が楽しみで仕方なくなってきます。今回はそんな夕暮れ時から夜のはじまりに、しっとりと溶け込む歌声を持つディーバ、英珠の曲をお届けしましょう……(後略)」。

 刻一刻と変化してゆく夕景が、リアルに、そして色彩豊かに脳裏に浮かび、心に沁みてゆく。言葉を扱う職業の人々は、えてしてレトリックにとらわれがちだ。例えばスポーツ番組の実況などでも言葉遊びが多く、鬱陶しく感じることがよくある。

 しかし、彼女の語りにはそれがない。シンプルでありながらとても具体的で、情景をイメージしやすく、メッセージが心にすーっと入ってくる。彼女自身、2006年11月の『電通報』に、こう書いている。「(前略)以来、分かりやすい言葉を使って、相手へ伝えることを追求しています。料理を美味しいと思う心、夕陽を見て感動した心、ライブを観て震えた心。たくさんの経験から感じた言葉の中で、本当に必要なものだけを還元する。実はこれが一番難しいことなのかもしれません。生き方がそのまま伝わる職業だからこそ、心を鍛え、分かりやすく喋る。“シンプル”。今、この言葉の深さをかみしめています」

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