スバルはなぜWRCから撤退するのか――社長会見を(ほぼ)完全収録(5/5 ページ)

» 2008年12月17日 13時10分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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「1回勝ってやめたいな」と正直思っていた

――今の経営環境の悪化の中でWRCに参戦することがどれだけ困難なのかをコスト面から具体的に教えていただきたいのが1点。もう1点、実体経済の悪化が企業の自動車競技に大きく影響を与えていることを社長はどうお考えなのでしょうか?

 基本的に今の経済状況からいきますと、従来通りで進めていったのでは、なかなか売り上げはあがらないと考えています。そういう意味では構造改革を含めてあらゆることをやっていかなければいけない。今の状況はしばらく続くということからして、我々は非常に厳しい状況にありますので、その1つの結果としてWRCからの撤退を判断したということです。

 コスト的な影響についてはなかなか勘弁していただきたいところでもあるのですが、何十億レベルのインパクトがあるとご理解していただきたいと思います。

 このような状況の中で各社、モータースポーツから少しずつ手を引かれるような状況になっていますが、クルマを買っていただくお客様にどういうメッセージを送っていくかというのを、我々は考えていかなければならない。WRCからの撤退ということになりますが、それ以外の方向でクルマに乗る喜びとか楽しさとかそういうものを訴えていきたいとは思っています。

――「経営資源を効率的に活用していく」と話されましたが、具体的にどういったことへ投資されるのでしょうか?

 中期経営計画で「スバルらしさ」ということをうたわせてもらっているわけですが、そのスバルらしさとは信頼、安心の走りと地球環境の融合ということを言っております。そういうクルマ作りをするために、リソースを投入していきたいと考えております。

――(ラリージャパンの)北海道で成績が振るわず、社長がご不満そうでしたが、費用対効果を考えた結果ですか?

 (WRCは)ある程度スバルのブランドを高めてくれたし、ずいぶん貢献してくれたと思うのです。ただ、その次のステップとして、何をやらなければいけないのだろうかというのは従来からずっと考えていました。

 確かに勝てないというのもありました。「1回勝ってやめたいな」と正直思っていたのは事実です。だから今年投入した新インプレッサに期待をしていたのですが、残念ながら2位が最高でした。ちょっと残念でしたが、別の方法で訴求していきたいと思っております。WRCだけではなくいろんな訴求の方法があると思っています。

――別の方法というのはモータースポーツも含めてということですか?

 モータースポーツも含めてです。

――経営資源の集中ということでモータースポーツ、広告や宣伝にお金をかけるのかということになりますが?

 費用対効果を見ながら、何がいいかなってことになりますけどね。今、「これをやろう」というのが決まっているということではないです。

――「ラリーイメージを払しょくしたい」ということはありますか?

 それは、よく言われます。「ラリーは環境に悪いイメージがあるのではないか」とか言われるのですが、私はラリーは決してそういうスポーツではなく、自然と一体となりながら進めていくモータースポーツという文化だと思っています。

――ラリーが量販車の技術にも生かされてきたと思うのですが、今回の撤退で開発に影響は出ますか?

 PWRCなどには出ますので、基本的なところはそれで補っていけると思っています。

――スバルというとラリーが強いイメージがあって、それで人気が高いと思うのですが、それを撤退しなくてはいけないほど切羽詰まっているということでしょうか?

 やはり今回の(金融危機下での)経営判断の1つですから。許されるものなら続けていきたかったというのが当然あります。それを切羽詰まったというのかということですが、切羽詰まったのでしょうね。

富士重工業の電気自動車「R1e」(出典:富士重工業)

――富士重工業は電気自動車も作っていますが、これからはこれまでのクルマと開発の方向が違うのかなということで、そういう節目を感じて撤退されたのでしょうか?

 必ずしもそういうこととダイレクトに結びついているということではないです。例えばラリーでも、電気自動車でやるラリーがあってもいいと思います。やっぱり走る楽しさというのがあると思います。将来的には、電気自動車でWRCに出る形もあるかもしれませんね。

――経営状況が非常に厳しいとありましたが、直近の状況についてコメントいただけますか?

 生産と販売は今までに発表させていただいている内容と、全然変わっておりません。当初の計画に対して5〜6万台の減産をやったというのと、契約期間を終了した期間工の方の更新をしないと伝えたといったこと、発表している内容に加えて新しいことが起こったということではありません。今、予算を組んでやった時と何が変わっているかというと、円があまりにも高くなっているというのが我々としては苦しいです、正直。

――富士重工業の場合は第2四半期で業績予想を修正しなかったのですが、円高を考えると第3四半期辺りで修正を出されるのでしょうか?

 それはこれからです。今のところはまだ変えるということにはなっていません。でも、今の状況が続けば苦しいです。下期は(1ドル=)95円でみていましたから。(想定為替レートは)100円ですが、(100円以上の時に)予約をとったものが前半あって、それに対して後半が95円ぐらいで平均で100円かなと見込んでいたのですが、今の状況はかなり苦しいですね。苦しい方向に振れているのは事実です。

ホッとしたような表情の森社長

 「長い間ご支援ありがとうございました」と頭を下げて引き上げていった森社長。会見の途中で言葉を詰まらせる場面もあったが、難題が解決してホッとしたような表情もあったように見えたのが印象的だった。

囲み取材を受ける森社長

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