体験乗車から貸し切りサービスまで――“世界でここだけ”「リニモ」の魅力とは?(前編)近距離交通特集(1/3 ページ)

» 2008年12月02日 14時20分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 2005年、愛・地球博へのアクセスラインの1つとして開通し、“動くパビリオン”として人気を集めた磁気浮上式リニアモーターカー「リニモ」(正式名:愛知高速交通東部丘陵線)。愛・地球博の会期中に約2000万人の乗客を運び、その後は、世界でたった2カ所※しかない常設のリニアモーターカー実用路線として今も営業を続けている。

※日本の「リニモ」と中国の「上海トランスラピッド」。

 世界的に珍しい、日本でも唯一のリニアモーターカーは今どのようなサービスを行っているのか。また、リニモの魅力とは何なのか。前後編に分けてレポートする。

リニモが「エコな」理由とは?

 常電導吸引型(HSST※)磁気浮上式鉄道。これがリニモが採用しているリニアモーターカーシステムの名称になる。「磁気で浮上する」というと、電磁石の反発力でレールの上に浮いているというイメージがあるだろうが、実際はその逆。車両下部にある走行用モジュールがレールを挟み込む形になり、その下側の電磁石が「発生した磁力でレールに吸引する力」を使って、車体をレールから浮き上がらせている。電磁石とレールとの間隔は、専用のギャップセンサーとコンピューターによって制御されており、始動中は常に約8ミリメートル浮上している。

※High Speed Surface Transportの略。
リニモの常電導吸引型(HSST)システムの模型。レールを挟んで下側にあるのが浮上用の電磁石で、これがレールに“引きつけられる”力で車体を浮上させている
リニモ浮上実験

 「なぜ(磁石の)反発力ではなく吸引力で浮上しているかというと、その方が間隔制御がしやすいからです。現在のシステムは1秒間に約4000回の頻度で電磁石の動作を制御していまして、常に約8ミリメートル浮上しています」(愛知高速交通 企画営業グループ長の江尻和聰氏)

 リニモは一度起動し、浮上すると、走行・停車に関わらず、車両は浮かんだままになる。浮上中はレールとの摩擦がまったくなくなるため、「(車両の)1両程度ならば、女性が押すだけで動かせる」(江尻氏)という。

整備中のリニモの車両。引き込み線から整備場への移動は、HSSTを稼働・浮上させた状態で、“作業員が押すだけ”の人力で動かすという
リニモ移動実験

 この浮上したリニモを推進させるのが、モジュールと一体化したリニアモーターだ。これは普通の回転モーターを平たく伸ばしたような構造をしており、通常のモーターが「回転運動」を作り出すのに対して、リニアモーターは「直線運動」をする。磁気浮上システムで浮かび上がった車両を、リニアモーターの推進力で“押していく”ことで、リニモは電車やゴムタイヤ式の新交通システムにないスムーズな動きを実現しているのだ。

リニモの心臓部である浮上・走行用のモジュール部分。レールの下側がHSSTの電磁石ユニット、指で指し示されている部分が推進用のリニアモーターだ。写真で案内をしているのは、愛知高速交通 企画営業グループ長の江尻和聰氏

 「磁気浮上式システムの強みは、加速・減速がとてもすばやいことです。実際の運行時にはそこまでの加速はしませんが、性能上の加速力は新幹線の2倍はあります。また登坂性能が優れているのも特徴で、例えばリニモの路線には碓氷峠並みの60‰(パーミル)の勾配がありますが、それも楽々と加速しながら上っていきます」(江尻氏)

 リニモの路線距離は約9キロメートルだが、「東部丘陵線」の名の通り、丘陵地帯のそこはとても勾配がきつい。その中に9つの駅があり、頻繁に加速・減速をしていかなければならない。

 「東部丘陵線は『自然をできるだけ残していく』ことが重要視されたので、(土地を造成して)勾配を削っていくのは避けたかった。そこで加減速や登坂能力が優れており、丘陵地帯の地形に沿ってスムーズに運行することが可能なリニアモーターカーが選ばれたのです」(江尻氏)

 リニアモーターカーというと、中国の「上海トランスラピッド」や、JR東海が計画中の「中央新幹線(通称:リニア中央新幹線)」など、ハイスピードな乗り物というイメージが強い。しかし、勾配に強くて短距離での加減速が可能な走行特性は、丘陵地帯や都市部で、大規模な土地造成をせずに軌道を造れるというメリットもある。

 「自然を壊さず、地形に沿って営業できるリニモ(リニアモーターカー)は、とてもエコな乗り物という面もあるのです」(江尻氏)

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