最終話 中村誠32歳、選択の時Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(3/4 ページ)

» 2008年11月27日 17時40分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

橋下 割と深刻な悩みみたいですね。何でしょう? 僕でよければ、相談に乗りますよ。

 ええ、ぜひ。実は僕の学生時代の友人がヘッドハンティング会社にいて、先日一緒に飲みに行く機会があったんです。その際、僕が社内プロジェクトのリーダーをやっていることを話したら「そのキャリアならコンサルティング業界でも通用するよ。君は転職には興味がないのか?」って聞かれたんです。そのときはお酒も入ってて適当に「興味はある」って答えたら、その後電話がかかってきて、今度は友人の上司と会ってもっと具体的な話をすることになっちゃったんですよ。

橋下 それはまた、ずいぶんと急なアプローチを受けたんですね。それで、どうするつもりなんですか?

 それで橋下さんに聞きたかったのは、どんな業界なのか、詳しく教えてもらいたかったからです。皆さんの仕事ぶりはよく拝見してますし、仕事の中身も何となくは想像できますけど、実際のところはどうなのかな、と。橋下さんは僕と同い年だし、ずっとこの業界にいらしたわけでしょう?

橋下 そうですね。僕自身は転職経験がないので何ともいえないのですが、星野に言わせるとこの仕事が“天職”と思えるかどうかが判断の分かれ目のようです。日本では一度コンサル業界に行くと事業会社に戻りにくいので、中途半端な判断ならやめておいた方がいいということです。よく隣の芝生は青いって言いますしね。もっとも、一度くらい話を聞くだけなら社会勉強にはなると思いますが。

 やっぱり、そうですよね。中途半端はダメですよね。ありがとうございます、橋下さん。お話させていただいたおかげで、少し気持ちの整理がつきました。

橋下 何にせよ“勇み足”は禁物だと思いますよ、中村さん。

 少し前から橋下と2人でヒソヒソ話す自分を見つめる視線を背中に感じていた誠が振り返ってみると、反対側の壁際で広報部の後藤美咲が立ち、じっとこちらを見ていた。

 お疲れ様です、後藤さん。懇親会が始まるまで、少しお話してもいいですか? できれば、プレゼンの感想も聞きたいし。

美咲 ええ、もちろん。中村さんのプレゼンテーションは、すごく分かりやすくて良かったと思います。何といっても会社の未来を感じさせる商品を実際に見せる演出は、ばっちりでした。

 ありがとう。だけど、お世辞でもちょっと褒めすぎですよー。

美咲 プレゼン資料もグラフや図が多くて見やすかったし、書いてある文字の大きさも適切でした。そのまま社内報に載せてもいいなって思ったくらいですよ。ほら、社内報を作っているとそういうことに思わずチェックが入ってしまって。それから……。

 美咲はちょっと口ごもると、言いにくそうに切り出した。

美咲 これは余計なお世話かもしれませんが……中村さん、少しダイエットしたほうがいいかも。そのほうが、きっと写真映えもよくなると思うんです。

 あれ、バレちゃいました? 実はプロジェクトを始めてから体重が4キロも増えちゃって。日頃の不摂生のせいか、ストレス太りしたみたいなんです。

美咲 健康飲料を作る人が、それでは困りましたねえ。あの、よかったら、休日に私と一緒にジョギングをしませんか? こう見えても高校時代は陸上をやっていたので、浜松にいた頃はお昼休みによく走ってたんです。でも本社にきてからは平日に走るわけにもいかなくて残念だったの。

 えー、それはうれしいけど……僕と一緒に走ってくれるんですか?

美咲 ダイエットって、1人だけで取り組むのはツライでしょう? だから、私もお手伝いします。

 (もしかしてジョギングに名を借りたデートってことなのかな?)ご協力、どうもありがとう! じゃ、さっそく来週から頑張ります!!

美咲 そうそう、その意気でしっかりやせてくださいね。それと中村さん、係長昇進おめでとうございます。

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