200年前の森林破壊から学んだ――ドイツ・黒い森の持続可能な森林管理松田雅央の時事日想・特別編(2/2 ページ)

» 2008年11月25日 15時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]
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森林破壊が教訓

 このように黒い森は今でこそ自然豊かな森になっているが、200年前には過剰伐採による深刻な環境破壊を経験している。

 当時、最大の木材需要はオランダの造船産業だった。オランダは黒い森から切り出された木材を用いて年間2000隻に及ぶ大型船を建造し、アジア・ヨーロッパを結ぶ海上貿易を支配していた。

 黒い森地方で伐採された木は丸太のまま山の斜面に作られた木の滑り台を使って川(例えばアルプ川)まで落とし、まずライン川へ流された。適当なところでイカダにし、オランダまで輸送されたが、大きなイカダになると長さ400メートル・幅80メートルにもなったという。

 ライン川という輸送手段とオランダの木材需要がそろい、黒い森の森林資源は枯渇してしまったが、現在の持続可能な森林管理はこの苦い教訓から生まれている。

自然の営みを助ける

 黒い森は経済林として利用するために針葉樹、とりわけマツ科のトウヒの割合を高くしているが、森林管理の基本理念は自然の営みを手助けすることにある(トウヒの割合は80%以上)。

 通常、植林は行わず、自然の営みの中で種が萌芽し、若木が育つのを待つ。加えて下草刈りは行わず、特別な品質の木を育てる時以外は枝打ちしないなど、人件費の抑制や後継者不足という現実に対応している。

 また、皆伐(一定区域の木を全て切る伐採方法)は行わず、 あえて搬出コストが2〜3倍かかる択伐(目的の樹木だけを選ぶ伐採方法)を行っている。森の土壌を傷めるので樹木の搬出にキャタピラは使用しない。

 黒い森では木の成長により年間10〜12立方メートル/ヘクタールの新たな木材が生み出され、この“成長する分”だけを伐採するので、森林資源が枯渇することはない。具体的には各区画から5年に1度、10〜15本/ヘクタールの樹木を切り出す。

自然に発芽し生長する若木(左)、伐採され搬出を待つ丸太(右)

天然林に近づける

 200年間に渡り培われてきた黒い森の森林管理は、すでに持続可能な森の利用をかなり実現しているが、天然林ではないので自然環境の変化には弱い。この点、黒い森の森林管理にも改善の余地がある。

 昔、トウヒが黒い森の主要樹木として選ばれたのは、湿潤寒冷な気候に適し、成長が早く、良質な木材を生産できるからだった。しかし特定の樹木だけが育つ人工林は生態系としてはもろく、このまま気候の温暖化が進むと壊滅的な被害が発生すると危惧されている。実際、猛暑の夏には木を食い荒らす甲虫が大発生し、冬の嵐では何万本という単位で木がなぎ倒されてしまうが、さまざまな種類の木が混じる天然林ならば自然災害に対してはるかに強いはずだ。

 黒い森を天然林に近づけていくと木材の生産効率や収益は落ち、短期的にはどうしても経済的デメリットが生じる。しかし、長い目で見れば虫にも嵐にも強い健康な森が育ち、結局は林業に大きなメリットをもたらすと考えられている。

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