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» 2008年11月19日 08時34分 UPDATE

財務で読む気になる数字:なぜ黒字なのに、早期退職制度を導入するの?

これまで不景気になれば「早期退職制度」を実施して、リストラに踏み切っていた。しかし最近では、収益力が高い企業でもこの制度を導入するところが増えている。その理由は……?

[斎藤忠久,GLOBIS.JP]
GLOBIS.JP

斎藤忠久の「財務で読む気になる数字」とは?

グロービス・マネジメント・スクールそしてグロービス経営大学院で教鞭を執る、斎藤忠久氏による新連載。ファイナンスの観点から話題になったニュースを独自の視点で読み解くコラム。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2008年9月5日に掲載されたものです。斎藤氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 企業は余剰人員を整理(リストラ)し、事業収益を向上させることを目的として「早期退職制度」を実施する。以前は赤字から脱却するために導入することが多かったが、最近では黒字で収益力が高い企業であってもこの制度を導入するところが増えてきている。この早期退職制度とは実施する企業にとってどのような効果をもつのであろうか?

 企業から見れば早期退職金制度における割り増し部分は一種の移籍金であり、割り増し退職金を支払っても企業としてお釣りがあるから、このような制度を実施するのである。これは、PV(余剰人員のネットコスト)−早期退職金 > 0 ということを示している。

 コスト(賃金・給与)が高く労働生産性が低い人員(往々にして中・高年労働力)を、コストが低く労働生産性の高い人員(若年労働力)に置き換えることによって得られる付加価値の増加額(一定の売上高を上げるのに必要な労働コストの低減額)が大きければ、この削減されたコストの一定割合を割り増し退職金として支払ったとしても、相対的に労働生産性の低い人員をリストラすることは企業にプラスのNPVをもたらす。

 リストラされる中・高年労働者にとっても、「転職した先での将来の給与の現在価値プラス早期退職金」のほうが、「この企業に定年まで居残ることの価値(将来得られる給与プラス通常の退職金の現在価値)」よりも高ければ、早期退職制度に応募して退職したほうが得策である。

 それではなぜこのような現象が起こるのであろうか?労働生産性に見合った給与となっている限りはこのような早期退職金制度は機能しない。中・高年者を若年者で置き換えても企業としてNPVは変化しないからである。しかし、日本における伝統的な給与体系は下の図のような仕組みになっている。

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 このような後払い的な給与体系は、社員の定着率を高める効果を持っており、戦後の日本の大企業における労働力不足を解消する手段として機能してきた。日本における雇用環境の流動化が進み、労働生産性に見合った給与体系の採用が広がってきていることがさらに人材の流動化を促進していると言えよう。

 なお、早期退職金をファイナンス的に考える上で重要な要素が、「金銭の時間的価値」という概念である。これは、簡単に言えば5年後の100万円よりも今日の100万円のほうが価値があるということである。なぜならば、今日の100万円は確実であるが、5年後の100万円には本当に手に入るかどうかという不確実性(リスク)がつきまとうためである。

 例えば被雇用者の視点から見て、現勤務先企業の経営環境が厳しい場合、定年まで待ったとして約束の退職金が全額支払われるかの不確実性が高くなる。この場合、上述の「この企業に定年まで居残ることの価値(将来得られる給与プラス通常の退職金の現在価値)」を算出する際に使われる割引率はかなり高目に設定されることになるのではないだろうか。そうだとすれば早期退職金としての上乗せ額があまり大きくなくとも、早期退職制度に応募したほうが得策となる。同時に、給与所得と退職給与所得に関する税制面での取り扱いの違い(退職給与所得に対する税率は給与所得に比べ明らかに低く設定されている)も早期退職制度を考える際の大きな判断材料となろう。

斎藤忠久(Tadahisa Saito)

東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業後フランス・リヨン大学経済学部留学、シカゴ大学にてMBA(High Honors)修了。富士銀行(現在のみずほフィナンシャルグループ)を経て、富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、ナカミチにて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。

その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役を経て、現在エムティーアイ(JASDAQ上場)取締役兼執行役員専務、コーポレート・サービス本部長。


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