「1歳からのお好みソース」って何だ? 素晴らしきオタフクソースの“理論武装”それゆけ!カナモリさん(3/3 ページ)

» 2008年11月17日 07時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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11月13日 「東芝PC直販、楽天市場にも展開」の意味するものは?

東芝ダイレクトPC 楽天市場店

 東芝が自社サイトでの直販に続き、楽天市場にも出店をした。このことが意味するものは何だろうか。

 2008年11月10日にITmediaに掲載されたニュース「東芝、PCネット直販を楽天市場でも展開」によると、従来、自社サイト中心にPC直販を行っていたが、楽天を通じて直販モデルの認知・販売を拡大する、とのことだ。

 実際に楽天のサイトを見てみる。当面は、ネット限定モデルからスタートのようだ。

 マーケティングの4P(Product・Price・Place・Promotion)のうち、Place、つまり流通戦略は最も厄介で慎重を期するPである。それはなぜか。製品(Product)を作る。価格(Price)を設定する。これは、全部自社だけでコントロールできる。広告などのコミュニケーション戦略(Promotion)はメディアや広告代理店が絡むが、あくまで受発注の関係。あえて良くない言葉でいえば「下請け」である。

 ところが、流通戦略はチャネルという全くの「他人」が対等の立場で絡んでくる。対等という表現には違和感があるかもしれない。しかし、メーカーはチャネルがなければ商品が売れない。しかし、チャネルもメーカーの商品がなければ売るものがない。言い換えれば相互依存の関係といえる。

 相互依存の関係を良好に保つために、最も留意すべきは「チャネル・コンフリクト」を回避することだ。チャネル戦略を変更すると、既存のチャネルとの軋轢が発生する。有名なのは旧松下電器産業(現パナソニック)の「ナショナルの店」だろう。松下幸之助が自らも一店一店足で回り、自社商品を扱ってくれるように口説いた店は、最盛期全国で5万店に登った。店舗数ナンバー1のセブンイレブンですら全国1万2千店強なので、いかにその数が多いか分かる。

 しかし、その「力の源泉」であったナショナルの店が足かせとなった。家電量販店の登場である。圧倒的なバイイングパワーによる安値、品揃えが消費者の心をとらえ、購買行動が変化した。その変化に対応すべく、松下も量販店に注力したかったのだが、それをすれば、同一エリアに展開するナショナルの店をつぶすことになる。量販店に積極展開できない松下を尻目に成長したのが、シャープと三洋電機だ。なぜなら、両社はチェーンストアを持っていないため、しがらみがなかったからだ。その後、松下はナショナルの店をメンテナンスや工事までできる「プロショップ」化するなど、チャネル改革に懸命になったが、長い時間を要した。このように、流通戦略におけるチャネルコンフリクト回避には多大な配慮が必要なのである。

 では、量販店の天下はいつまで続くのか。

 家電量販店トップのヤマダ電機は売上高1兆8千億円を超えている。家電量販の市場規模は7兆円ともいわれ、全国の主要駅前一等地に次々と大型店が出店している。

 しかし、その勢いにもかげりが見えてきた。今年8月、NIKKEI NETに「家電量販大手4社、消費不振で最終損益悪化 4−6月」との記事が掲載された。9月の金融危機以降、一段と店頭から客足が遠のいているともいう。

 チャネルコンフリクトは回避したい。しかし、チャネルと心中はしたくない。これはメーカーの永遠のテーマでもある。あるアパレルメーカーは、百貨店への配慮から、ショッピングモールなどへの直販店展開に躊躇し、如実に購入客数の低下を招いている。低迷する百貨店と緩やかな心中という方向が見えてくる。

 さて東芝だが、最近は特に低価格ノート「ネットブック」市場へ積極参入している。10月に発売した「NB100」である。ネットブック市場は今、価格優位性で市場のシェアを取り合う「ペネトレーション・プライシング」の戦いに突入している。大手デルも参入した。値下げ戦略に対抗するため、「NB100」も発売早々2万円近く値下げを余儀なくされている。ペネトレーションの要諦は、とにかく数を売ること。売って売って、規模の経済や経験効果を発揮し、生産原価を下げて利益創出するしかないのだ。

 そんな背景もあってか、楽天への展開だ。自社直販サイトが充実しても集客数には限界がある。そこで、大手ECサイトへの進出という選択肢が持ち上がってくる。だが、量販店の立場からすれば、明らかに競合となる存在だ。

 チャネルコンフリクトの懸念を抱えてまで楽天に出店した東芝。まだ、ネット限定モデルでの展開だが、早晩ラインナップの充実も図るだろう。楽天への出店。それは、東芝が家電量販店の失速を見て、やがて凋落した場合に備えた「保険」なのではないかとも考えられるのである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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