第12話 さっぱり VS. トロミ? 試作品の作り方Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(2/3 ページ)

» 2008年11月13日 12時15分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

 誠たちが試作品の条件組み合わせを考えていたのと同じタイミングで、山口からメールが届いた。内容は本調査のヒアリング結果についてで、ヒアリングでは口当たりの「粘度」が注目されたという報告だった。改めて誠は、坂口と仲居に声をかけ、食品飲料開発センターの一室に集まった。

仲居 ほら、やっぱり俺の言ったとおり、「味・口当たり」が注目されたじゃないか。

坂口 でも「粘度」は風味というよりも口当たりの要素ですからね。ずばり味そのものというわけでもありませんよ。

 ちなみに坂口さ、「口当たり」の要素を具体的に表すとどんなものがある?

坂口 そうだな。成分分析的に考えると「粘り気」、「水気」、「ざらつき」、「喉ごし」、「香り」あたりかな。もちろん甘い、すっぱいといった「味」の要素も含まれる。

仲居 だから言っただろ、最後は味で決まるんだって。大豆飲料で“さっぱりした味”、これがいいんだよ。今までどおり「豆乳ちゃん」路線で行けば、万全だってことさ。

坂口 本当にそうでしょうか? 少なくともウチの豆乳はサラッとはしていませんし、さっぱりした味でも粘度はそれなりにありますよ。それに「豆乳ちゃん」の後追いじゃ、新商品開発の甲斐がありませんし。

仲居 ほら、すぐそうやって開発部は新しいものを作りたがる。ちょっと試してみては、すぐ引っ込められたんじゃ、生産ラインがいくつあっても足りないんだぜ。それこそせっかく作った甲斐が台無しだ。

 仲居先輩が手堅さを重視されるのは僕も理解しているつもりですが、ここは素直にお客様の意見、つまり「粘度」をよく検証してみたほうがいいと思うんです。以前、師匠と新製品企画の評価マップを作っていた時にこう言われました。「まずお客様の声を聞いて、よく検証しろ。それが鉄則だ」って。

仲居 お客様が必ず正しいことを言うとは限らないだろ。クレームや無いものねだりだって言われるわけだし。

 でも結局は、お客様に飽きられたり、見放されたりしたら終わりですよね。だから僕たちには新しい挑戦が必要だって、小石川社長がおっしゃったんだと思います。先輩方の経験則は尊重しますけど、このプロジェクトではそれを超えるような道筋をつけなくちゃならないんです。

 熱っぽく語る誠の勢いに気おされたように、仲居と坂口は互いの顔を見合わせた。

坂口 じゃあ、こうしましょう。飲料の「粘度」については僕たち開発部で責任を持って評価レベルを定量的に決めます。目安は「豆乳ちゃん」同等とそれより低目の2レベルで考えます。それ以上細かくしても、モニターの負担が増えるだけでしょうから。

仲居 粘度はそれでいいとして、味はどうする?

 消費者調査用のパネルを作った時のブレインストーミング※では、風味のコンセプトとして「柑橘(かんきつ)系のレモン」と「トロピカル系のパイン」の2つに絞りましたよね。

※ブレインストーミング…参加者が自由にできるだけ多くの意見を出し合うことで、独創性を引き出す討議方法。

 そういうと誠はそのときの検討結果のコピーを取り出して机に置いた。

消費者調査用パネルを作った時のブレインストーミング結果

仲居 そうそう、思い出した。自分ではあの時も “さっぱりした味”にこだわってたんだよな。

坂口 今回の調査だと2つの違いは特に見られなかったけど、それってどちらでもいいってことなのかな。

仲居 いやそんなはずはないだろう。その道のベテランぞろいで選んだんだから、お客様にその違いをもっとよく評価してもらった方がいいんじゃないか?

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