階段を上がって建物の中に入ると、オープンしてまだ半年のレストランとは思えないくらい、重厚で歴史のある雰囲気が漂っていることに驚く。ザ・ポーンが営業しているビルは1888年に建てられたもので、もともとは「和昌大押」という質屋が営業していた(「大押」は質屋の意)。和昌大押ビルの買い上げ・修繕にかかった期間は約10年、コストは約40億円。URAは和昌大押ビルのリニューアル案を公募し、コンペで勝ち残ったのがザ・ポーンだった。「リニューアル案を公募するにあたり、条件となったのは、資料館のような場所ではなく、一般の人も楽しんで使えるようなものにしてほしい、ということでした」(広報の李婉虹さん)
ザ・ポーンはこのビルの2階、3階、屋上で営業しており、香港のビルには珍しく、バルコニー席も設けている。内装を手がけたのは、香港出身のアーティスト、スタンレー・ウォン氏。英国からアンティーク家具を買い付けたほか、スタンレー・ウォン氏に全体のイメージに合う家具のデザインを依頼したという。「もともとが質屋のビルだったということで、(調理場から料理を出す)カウンターを質屋風の高さが高いものに復刻するなど、トータルのイメージを大切にしています」(李さん)
ザ・ポーンは和昌大押ビルにテナントとして入居している。相場よりも安い家賃だというが、建物の保存のために決められたルールは厳しい。壁に穴をあけてはいけないので、壁に絵や写真は飾れないし、バルコニーを守るため、客が座るソファとバルコニーの手すりの間にはガラスの板が張られている。「このビルは4ブロックに分かれていて、一番端のブロックは質屋、残りの3ブロックは住居でした。リニューアルにあたっては、全ブロックをつなげてすべてレストランにしましたが、壁やドア、階段は、保存のために当時のものを残しています」(李さん)
香港では、ザ・ポーン以外にも同様の取り組みが少しずつ増えている。同じワンチャイでは、建築会社が入っていた船街18番ビルを改修し、私房菜(有名なシェフがごく限られた客だけを相手に料理を振る舞う、プライベートキッチン)としてオープンした「鴛鴦飯店」が話題だし、ほかにも九龍半島の尖沙咀(チムサーチョイ)や香港島の赤柱市場(スタンレーマーケット)などでも、同じく古い建物を生かしてリノベーションした例がある。
日本の地方都市ではしばしば、古い建物を残したはいいが、誰も訪れなくなってしまった資料館を見かけることがある。ただ建物を保存するだけでなく、誰もが楽しめる形で生き返らせる。それが店のビジネスにもなる――手間もお金もかかる方法だが、日本でもヒントになるのではないだろうか?
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