100円ショップに未来はあるのか? 5つの力で分析してみた(3/3 ページ)

» 2008年11月05日 10時17分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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10月29日 「ミスド値下げ」のウラ側をのぞくと……

 原料高に苦しむ食品業界や外食産業では値上げラッシュが続いている。そんな中、ミスタードーナツは11月1日から商品の値下げを行うと発表した。いわゆる「逆張り」の戦略とも思えるのだが、実際には大きな不安が感じ取れる内容であった。

 同社のニュースリリースによると、“お手軽・お手頃、フレンドリー”をテーマに一部商品の規格・価格を改定をするということだ。

 平均単価を125円から119円に引き下げということなので、平均した値下げ率は僅かではあるが、この環境下でよくぞ決断したと言えるだろう。しかし、この値下げ戦略にはウラがあったようだ。

 Tech insightというニュースサイトが、「 手放しに喜べない…… ミスド10商品価格引き下げへ」と題した記事を掲載している。

 記事からポイントを抜き出してみる。

 今回の発表では価格だけではなく規格も改定されることが明らかとなった。対象となる10商品はいずれもサイズが小さくなる

 「スティックパイ アップル」は、現行の約70グラムから約45グラムへとサイズも大幅ダウン

 グラムあたりの単価は改定前の約2.7円/グラムから改定後は約3.27円/グラムとなり、実質の値上げとなっている

 「スティックパイ アップル」は大きさが70グラムから45グラムに減り、価格は189円から147円へと改定されるので、22%値段が下がって35%量が減ることになる。計算しなくとも、35%も減量すれば、見た目にも小さくなったと分かるだろう。「割が合わない」と、消費者は感じるのではないだろうか。

 「割が合う・合わない」という判断基準には「カスタマーバリュー」いう考え方が当てはまる。カスタマーバリューとは、その製品に対し顧客がいくら払ってもいいと感じる値段であり、価格がその基準を超えてしまうと全く売れなくなるものだ。

 例えば、今年6月に行われたカップヌードルの値上げの影響がそれを如実に物語っている。メーカー希望価格155円から170円に15円値上げをしたが、店頭実勢価格が88円から118円と30円の値上げとなった。その結果、前月比で−52%の打ち上げという結果となったのだ。おそらく、消費者のカップ麺に対するカスタマーバリューは100円以下だったのだろう。

 外食産業の例では、2006年9月のリンガーハットの価格改定が思い出される。レギュラーサイズのチャンポンは価格改定前399円だったのが、値上げ後は450円となった。結果、顧客の激減を招いてしまった。カスタマーバリューは400円のラインにあったのではないかと思われる。

 その意味からすると、ミスタードーナツは189円のパイを値上げで解消しようとすれば、200円を超えてしまうかもしれない。それは明らかにカスタマーバリューを超えることになるだろう。

 記事では、価格とサイズを同時に下げるというのは業界でも珍しい試み、と分析しているが、これは食品業界ではよく行われる「量目調整」という手法だ。

 例えば、今年の6月に日本経済新聞が行った調査では、袋入りウィンナーの「シャウエッセン」が量目調整を行って、店頭価格277円から271円と、見かけ上6円の値下げをして売り上げを9%上昇させることに成功している。しかし、ドーナツやパイは袋入りウィンナーのように一見、減量が分かりにくい商品とは明らかに異なる。

 昨今の原料高はもはや企業努力だけでは吸収しきれない段階になっているのは確かだ。かといって、カスタマーバリューを超える値上げはできない。ミスタードーナツが、外食産業では珍しいとされる量目調整に踏み切ったのは、苦渋の選択であったことが伺える。

 しかし、「厳しい選択の結果」という価格改定の理由が消費者に理解されるか否かは、別問題だ。ミスタードーナツのニュースリリースによると、今回の価格改定を以下のように説明している。

 お客様がよりお買い求めやすい価格で商品を提供するためと値下げをアピールし、お客様に“お手軽・お手頃”にご利用いただけるよう低価格の商品発売にも力を入れ、バラエティーに富んだ商品を取りそろえた“フレンドリー”なドーナツショップを目指します、と結んでいる。さて、いかにも小さくなった商品を見たとき、消費者はフレンドリーさを感じるだろうか。

 「お求めやすい価格での提供」や「フレンドリー」などというきれいな言葉ではなく、「やむなき実質値上げ」という真情を吐露し、素直に消費者に理解を求めた方がよかったのではないだろうか。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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