ジュエリーの女性デュオが生み出す“igoにしかできない世界”郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)

» 2008年10月30日 23時15分 公開
[郷好文Business Media 誠]
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“成人式の写真、見せてくれない?”

 2人はヒコ・みづのジュエリーカレッジに入学した。ジュエリー専門学校では歴史もあるトップ校だ。1学年10クラス、1クラス30人だからおよそ300人。1年目は“年少”の基礎コース、2年目と3年目が本科の“年中・年長”だ。同じA-7のクラスだった。

 年をくっていたからマロッタさんは2年で上がろうと思った(結局3年学んだ)。クラスには社会人が例外的に多かったとはいえ、ほとんどが18歳。こっちは四大出で社会人経験もある24歳。6つも違う。

 「18歳の子から“成人式の写真、見せてくれない?”って言われたんですよ!」

 けらけらと笑って話すマロッタさん。でも負けたくない一心で、あらゆるコンクールに応募した。同じクラスに、もう1人あらゆるコンクールに応募する人がいた。山内さんだった。

 「マロッタって、ここまでやるんだ」色白の彼女はマロッタさんを意識し、褐色系のマロッタさんも山内さんを意識をしだした。

 ちょうど神戸の百貨店で学校とタイアップの展示販売企画があった。出品できるのは本科の生徒で、年少の基礎コースは対象外。でも出品したかったマロッタさんは学校に掛け合った。むりやりお願いしてネジこんだ。ふと気付くと、そこにまったく同じことをしている人がいた。山内さんだった。

神戸旅行での心が響きあう出会い

 2人は一緒に神戸に行くことにした。本科の生徒は学校費用の参加だったが、ネジこんだ2人は自費参加。それでも、自分たちの作品が売れるかどうかをどうしても確かめたくて、もう1人の生徒と一緒に、自動車で8時間かけて神戸に行った。ハンドルを握ったのは、運転に慣れていたマロッタさん。

 京都で途中下車し、観光をして、さらに夜も遊びまくった。ジュエリーを語り合った。ほとんど寝ずの2泊3日の旅で、お互いを心から知り合えた。百貨店ではマロッタさんはチョーカーを、山内さんはバングルを出品。1つずつ売れたな? という感じだったが、気にならなかった。デュオの運命を感じた、それがもっと大きな収穫だった。

 帰りもマロッタさんが運転したが、さすがに眠い。山梨でペーパードライバーの山内さんが「替わろうか」と言うので運転を交代した。これがヤバかった。

 「アタシを殺す気!」マロッタさんが叫んだ。すっかり眼が覚めて、次のサービスエリアで交代。デュオは死なず、igoを生んだ。

ネタ帳で相棒関係を深めた

 そこから共作が始まった。授業で「自分のネタ帳を作りなさい、文字でも絵でも何でもいいから、発想を書き留める習慣を持ちなさい」と教わった。それで毎日のように学校帰りに渋谷で、ご飯を食べながらネタ帳を見せあった。発想を見せっこして、「もっとこんな表現できない?」「こうしたらいいのよ」と意見をぶつけ合った。相棒関係が深まり、自分たちらしさが分かってきた。

2人のネタ帳

 制作表現上の共通項も分かってきた。2人とも糸ノコやボール盤が得意で、加工作業系に強い。表現では、グラフィック(二次元系の平面描写)に強いが立体(三次元の造形)に弱い。ワックスのブロックを加工して型を作る“ロストワックス製法”が苦手なのも同じ。ワックス科目では2人とも合格点を取ったことない。ジュエリーで立体造形が弱いのは致命傷。しかしこう考えた。

 “立体が弱いのを認めて、平面からの立体造形を創ろう。それがigoにしかできない世界” 

 平面から立体の“グラフィックな感覚”、「ハエのカタチのピアスなんて!」など“会話が生まれるジュエリー”、そしてマットとキラリ、もう一味の質感を出す“金属の表現力”。igoの3つのコンセプトが固まった。描いてスキャンする。トレースしてPCから出力する。金属のシートに貼って抜く。まるでオクターブが重なる歌手のデュオのように、同じ響きを2人で高めるスタイルが定まった。

  

igoのブレイク・イヤー

 2008年2月に開かれた展示会「rooms」をきっかけに、ファンも販売の場も広がった。起点には2人の“がんばり”がある。学校もそろって皆勤賞だ(ダイヤがもらえるご褒美ゆえもあり)。

 ところが卒業間近のある日、皆勤が危うくなった。2人、まったく同じ症状で高熱を出した。マロッタさん、これはヤバいと・・・意識もうろうで早朝何とか起きあがり、這うように病院に行った。インフルエンザだった。「シメタ!」インフルエンザなら公休扱いだ。病院から山内さんに電話した。

 「あなたもインフルエンザだから、早く病院に行って診断書ゲットしなさい!」

 こうして2人とも皆勤賞とダイヤをゲット。2人で山も谷も乗り切り、加工道具や小次郎(彫金専用机)を持ち寄り、igoの予算で素敵なアトリエを運営できるようになった。折からの金融恐慌のあおりで金価格が急騰し、最近は材料仕入れにも悩む。でもデュオの創造のチカラで、igoの価値はもっと急騰している。

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