どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(3)東京エリア編その2近距離交通特集(4/4 ページ)

» 2008年10月17日 23時11分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]
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【21】区部周辺部環状公共交通(仮称)の新設(1)

メトロセブン・エイトライナーの概要

 山手線の外側に環状線を造り、放射状の路線を結んで交通ネットワークを拡充させようという計画である。2015年までに整備着手すべき路線として、葛西臨海公園−赤羽−田園調布間が提示されている。葛西臨海公園駅から赤羽駅までは、都市計画道路環状7号(都道318号)の地下を走らせることから「メトロセブン」と呼ばれている。赤羽駅から田園調布駅、将来的には羽田空港へ向かう路線は都市計画道路環状8号(都道311号)に沿うことから、「エイトライナー」と呼ばれている。

メトロセブン・エイトライナーの現状

 壮大な計画であり、資金も巨額である。そのため基本構想はあるものの具体的な動きはない。メトロセブン・エイトライナーとも、関連する自治体の促進協議会が存在する。しかし、どちらも費用対効果の調査中といったところだ。

 メトロセブン構想は、葛西臨海公園(JR京葉線)−葛西(東京メトロ東西線)−一之江(都営新宿線)−(JR総武本線新駅)−青砥(京成本線)−亀有(JR常磐線)−北綾瀬(東京メトロ千代田線)−六町(つくばエクスプレス)−西新井(東武伊勢崎線)−赤羽(JR東北本線など)を結ぶ。全長は約30キロメートルとなる。推進役は江戸川、葛飾、足立の3区で、1994年に環七高速鉄道促進協議会を結成し、調査研究を行っている。最新の動向は2008年7月1日に開催された年次総会で、1年間の調査研究結果を報告するとともに識者の講演が行われた模様だ。

 エイトライナー構想は赤羽(JR東北本線など)−志村三丁目(都営三田線)−上板橋(東武東上線)−東武練馬(東武東上線)−平和台(東京メトロ有楽町線)−練馬春日町(都営大江戸線)−練馬高野台(西武池袋線)−井荻(西武新宿線)−荻窪(JR中央線ほか)−高井戸(京王井の頭線)−八幡山(京王京王線)−千歳船橋(小田急小田原線)−二子玉川(東急田園都市線)−上野毛(東急大井町線)−田園調布(東急東横線)−蒲田(JR京浜東北線ほか)−大鳥居(京急空港線)−羽田空港を結ぶ。全長は約40キロメートルとなる。推進役は大田、世田谷、杉並、練馬、板橋、北の6区で、こちらも1994年にエイトライナー促進協議会を設立した。最新の動向は2008年7月29日の年次総会である。全ての区長および区議会議長が出席し、活動の報告が行われたようだ。

 メトロセブン・エイトライナーの促進協議会は1997年に連携することを宣言し、赤羽駅を結節点として環状線として推進していく方針を決めた。2000年には「区部周辺部環状公共交通都区連絡会」を関連9区で設置している。こうした動きが評価されて18号答申に盛り込まれた。18号答申では「長大路線であり、今後の輸送需要等を踏まえて、早期に優先着工区間を決定する」とただし書きがある。

 そもそも環状線は、全区間通しで乗る乗客は見込めないものだ。そこで、乗り換え駅間ごとの需要調査の上、重要な区間ごとに建設されることになる。ただし、エイトライナーに関しては羽田空港アクセスがあるため長距離の利用も見込めるかもしれない。大田、世田谷、杉並の各区は南北方向のアクセスを改善したいという意向が強く、エイトライナー構想以前の1989年に「新交通システム等研究会」を結成していた。これがエイトライナー促進協議会の母体となっている。

 建設の順位づけは鉄道旅客の動向の他に、環状7号、環状8号の渋滞具合が参考になるだろう。バスの遅延が慢性化すれば、それに代わる交通手段が必要だ。環状8号の渋滞ポイントとしては国道246号との平面交差となる瀬田、高井戸付近、京急の踏切のある蒲田付近が知られている。このうち蒲田は京急の立体交差と国道15号のアンダーパス工事により改善されそうだ。となると、荻窪−高井戸−八幡山−千歳船橋−二子玉川あたりが効果的だと思われる。田園調布駅に到達すれば、蒲蒲線経由で羽田空港のアクセスも見えてくる。

 空港アクセスで考えると、実はもう1つ、エイトライナー待望論に加わる要素があると筆者は考える。調布飛行場と羽田空港のアクセスだ。東京都が運営する調布飛行場は、現在、東京都がコミューター空港として運営している。ここからは定期便として伊豆諸島への小型機が就航している。東京都は現在800メートルの滑走路を味の素スタジアム側に延ばし、最大1200メートルへ拡大する構想を持っている。これが実現すると、60人乗り程度のターボプロップ機が就航できる。

※コミューター空港……滑走路が1000メートル前後と比較的小規模の空港

 一方、兵庫県は但馬空港と羽田空港を結ぶコミューター便の就航を希望し、9月30日に但馬空港−神戸空港間でデモフライトを行った。羽田空港はD滑走路完成時に発着枠を拡大する予定で、兵庫県はその拡大枠にコミューター便の割り当てを希望している。しかし、数百人乗りが発着できる空港に数十人乗りの小型機を割り込ませる余裕があるかどうか。そこで、羽田の乗り継ぎ需要の少ない各地からのコミューター路線を、拡大した調布空港で引き受けるのだ。調布空港のアクセスとして、エイトライナーの八幡山駅から分岐し、鉄道空白地域の東八道路に沿う形で調布空港に至る路線を作る、という案はどうだろう。

青線がメトロセブン、赤線がエイトライナー

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(1)横浜エリア編

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(2)東京エリア編その1

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(4)東京駅周辺編

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(最終回)成田新線・新交通編

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――未来編

 →どうなる、こうなる近畿圏の鉄道網(前編)

 →どうなる、こうなる近畿圏の鉄道網(後編)

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